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音と画と編集力でトランス状態にさせる映画『君の名は』

今日ツイッターで有名起業家のイーロン・マスクが(英語で)「『君の名は』良いよね」って呟き、それに対して元CIAのスノーデンが「いや、新海誠は『言の葉の庭』だろ」という返しがガチであったようなので、便乗して『君の名は』について話します。

感動する映画って人を一種のトランス状態にさせるような要素があるものですが、本作はそれがいくつもミックスされている印象。

まず絵のクオリティが半端ない。風景描写が丁寧で、鮮やかで、時に神々しく、それだけ観賞しても良いくらい。絵だけでなく音のクオリティがこれまた素晴らしい。開始何分かでその素晴らしさに息を飲んだ。一つ一つの音がきめ細かく、柔らかく、寸分も雑にならないようそっと置かれているような質感。季節感や空気感もスーッと伝わってきます。

映画における音の重要性については一昨日の記事でも書きましたが、音声というのはどんな映画でもクオリティを確実に何割か上げてくれる要素であり、押井守監督などは毎回必ず米国のルーカススタジオに高い金を払って音の仕上げをやるそうです。実際、新海誠監督も音の演出にこだわっているらしく、映像ではなく音のリズムで流れをつくるタイプとコメントしています。

あとテクノロジーの発展も映像の質向上に寄与したらしく、ビデオコンテソフトの機能向上によってトライ&エラーがスムーズになり、映画全体の流れがコントロールしやすくなったとのこと。

http://www.sensors.jp/sphone/post/yourname-shinkai-makoto.html

新海:「最新のテクノロジーで」というわけではないんですけど、『君の名は。』ではビデオコンテを書くための専用のソフトを使い始めたんです。Toon Boom社のStoryboard Proというソフトで、これにはずんぶん助けられました。これまではバラバラのソフトで行っていた作業が一つのソフトで全部できるんです。絵が描けて時間軸に並べて声も録音できて、ト書きを書くとPDFで出力して印刷もできる。一つにまとまっていることで単純に効率が上がったり、トライ&エラーがすごくやりやすくなる。書きながら時間軸をいじれるというのは相当大きいですね。しかも作ると同時にビデオコンテになっているから、再生すれば誰に見せてもわかる。最終的に絵コンテで重要なのは映画の時間軸で、今回の映画で言えば107分のコンテを読んで映画の流れが停滞していないのか、速すぎないのか、そういうことを正確に読むということだと思うんですけど、ビデオコンテを作ることで、それが誰にでもできる。書き手以外の人でも客観的に評価をしてもらえる。そこがたぶんすごく大きなところで、意見は作品に反映していきました。

新海監督は自主映画出身でもあり、商業作品では分業で行う制作過程をすべて1人でこなした経験がここにあると思います。つまり編集の勝利。映画最後に2人が再開するシーンなんかまさにそうですね。二人が階段で向き合って、「君の名は?」と言った瞬間に、モリサワフォントのタイトル「君の名は」がバーンと出るあのドンピシャのタイミング。観客の呼吸にまで間を詰めてくるような緻密さです。(ちなみにタイトルに使われたモリサワのAI明朝は、オールドスタイルのフォントだったのが、本作をきっかけに再びブレイクしたとか)

声のキャスティングも秀逸。特にヒロインの声が感情豊か。結果的に主演の声を担当した上白石萌音さんと神木隆之介さんは、その年の声優アワードを受賞します。

主題歌もこれまた心地よい歌声のトーン。(サントラ買っちまった)
深海監督はRADWINPSの歌に最初からかなり重心を置いていて、出来上がった楽曲を聴いて脚本を描きなおしたというエピソードもあります。ここでも編集へのこだわりが分かりますね。画と声と音の総合的な調和を考えている。(あと文字か) すべての要素が見事に配置されたことで人を陶酔させる上質の「麻薬」が製造されたわけです。

相性が合わない人もいるかもしれませんが、合う人には麻薬みたいな作品ですね。リピーターが多かったのも納得できます。

映画のコアな作り手のなかには、観客をトランス状態にさせる手法を良しとしない方もいるのですが、これはこれで一理ある。ただ、『君の名は』に関しては、映画をエンターテイメントとしてアップデートしようという意気込みが感じられるもたしか。(たしか本作プロデューサーの川村元気氏がそういうコメントをしてたように記憶してるけど、出典記事は失念しました)目、耳、呼吸すべてを楽しませようという意図。3Dや4D、IMAXと商業映画がアトラクション化していく昨今、その興行面を追求していくのであれば、ありでしょう。

※あえて穴を探せば脚本かな。落ち着いて観ればけっこう入り組んでいます。話の筋が途中で分からなくなった子供もけっこういたとか。

最後に、本作と真逆の作品をご覧になりたい方は、以前こちらでも紹介したロシア映画『フルスタリョフ、車を』をご覧ください。非陶酔の極致を味わうことができます。(笑)

#映画 #君の名は #映画レビュー #トランス #RADWIMPS

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