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たばこの匂いと懐かしさ

幼い頃から、たばこの匂いが嫌いだった。
父親は喫煙者で、会社でも家でも車でもどこでも吸っていた。よく親が喫煙者だと子供も喫煙者になるというが、私は逆にたばこが嫌いになった。

たばこの煙が嫌なので、よく車で出かける時は運転席の斜め後ろの席に座り、窓を開けていた。昔テレビ番組の「伊東家の食卓」で、運転席と斜め後ろの窓を開けておくと、たばこの煙が上手く流れるという裏技が取り上げられたからである。この効果は絶大で、今でも無意識のうちに窓を開けている。

しかし、そうは言ってもたばこの匂いというのはしぶとい。服や髪についた匂いは取れにくいので、たばこを吸わずとも身の回り中たばこの匂いが染み付いていた。

ところで、私のたばこ観に新たな気づきがあったのは、家を出て就職した時である。
職場で、たばこを吸う人は全体のおよそ1割程度しかいないのである。喫煙している人の年齢は、親と同じくらいであるので、たばこを吸っている人がそもそも減っていた。
そして、一番驚いたのは、ある喫煙している人の話を聞いた時であった。その人は、家では子供がたばこの匂いを嫌がるので、会社の休み時間くらいしか吸わないと話していたのだが、私はその話を聞くまで、その人が喫煙者だと気づかなかったのである。
メンソール系の、匂いが比較的少ない銘柄を吸っていたのだが、それでも家に帰った時は、子供がたばこの匂いに気づくのだそうだ。

このとき、私自身がすでに、たばこに対して耐性ができてしまっているのに気づいた。家を出るまで、常にたばこと共に生活してきたためか、少々のたばこの匂いには動じなくなっていたのである。

ある時実家に帰り、懐かしさを覚えたのはくしくもたばこの匂いであった。思えば、家のにおいはたばこの残り香であり、それが家にいるのだという実感を与えてくれていたのである。
あんなにたばこが嫌いだったのに、いつしかたばこがあることに親近感を覚えていた。

とはいえ、依然としてたばこが嫌いなことは嫌いだし、自分で吸う気には全くならないので、その点は安心している。

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