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行動経済学が最強の学問である(無料公開版)

【書籍情報】

タイトル:行動経済学が最強の学問である
著者:相良奈美香
出版社:SBクリエイティブ
定価:1,870円(税込)
出版日:2023年6月2日

【なぜこの本を読むべきか】

今、世界の名だたるトップ企業で、行動経済学を学んだ人材の争奪戦が繰り広げられている。

もはや行動経済学は、「ビジネスパーソンが今、最も身につけるべき教養」である。

本書は、行動経済学を「初めて整理・体系化」した入門書であり、ビジネスパーソンとして知っておきたい行動経済学の「教養」を身につけることができる一冊だ。

本書は以下のような方々にオススメしたい。

■行動経済学を初めて学ぶ
■行動経済学を学んだことはあるが、まとまりがなくてわかりづらかった
■人間の行動に隠された真意を知りたい
■相手の行動をしれっと変えたい

特に本書は、初めて行動経済学を学ぶ読者を想定し、行動経済学の「基礎知識」から「主要理論」までを一冊で網羅している。

また、すでに学んだことがある方も行動経済学の本質から理解し直し、知識を体系化することで、理解が圧倒的に深まるだろう。

あなたの企業の顧客や同僚、取引先も皆「人間」だ。

経済とは結局のところ、こういった「人間の行動の連続」で成り立っている。

そんな経済における人間の行動のメカニズムを解明する学問、「行動経済学」を学んでおいて損はない。

【著者紹介】

相良奈美香

行動経済学博士、行動経営学コンサルタント。
行動経済学コンサルティング会社であるサガラ・コンサルティング設立、代表に就任。
その後、世界3位のマーケティングリサーチ会社・イプソスにヘッドハンティングされ、同社・行動経済学センター(現・行動科学センター)創設者 兼 代表に就任。
現在は、行動科学グループ代表として、行動経済学を含めた、行動科学のコンサルティングを世界に展開している。

【本書のキーポイント】

📖ポイント1

「認知のクセ」を生む理論のうち、最も基本となるのが「システム1 vs システム2」だ。
一概にシステム2がいい、システム1が悪いというものではないが、システム1を使いがちになってしまう場面を知ることは大切だ。

📖ポイント2

私たちは、周りの「状況」に決定させられている場合が多い。
まさか関係ないだろうと思っていることが、判断に大きな影響を与えている。

📖ポイント3

人間は「感情」によって非合理な意思決定をする。
行動経済学では強い感情と ”淡い感情” があるが、淡い感情を頻繁に感じる傾向にある。
非合理な意思決定の原因を考える際も、淡い感情に注目すべきだ。

【1】認知のクセ

システム1 vs システム2

まずは、以下のクイズに挑戦してみてほしい。

▼クイズ▼
野球のバットとボールが、合わせて1ドル10セントで売られている。
野球のバットはボールよりも1ドル高い。
別々に買ったら、それぞれいくらになるだろうか。

さて、クイズは一瞬で答えられたと思うが、実際の正解率はとても低い。

「バット1ドル、ボール10セント」

すぐにそう答えたあなたは、残念ながら間違えている。

正解は「バット1ドル5セント、ボール5セント」だ。

少し考えればわかる簡単な計算だが、直観的なシステム1を使って間違える。

これが、認知のクセによる非合理な意思決定だ。

正しい答えを出すためには、「バット1ドル、ボール10セント」と反射的に間違った答えが出た後、本当に合っているのだろうかと自己チェックをし、「直近の答え vs 考えて計算した答え」という比較をして後者を選ばなければならない。

人間の脳は、情報処理をする際に2つの思考モードを使い分けていて、それを「システム1 vs システム2」と呼ぶ。

システム1:直観的で瞬間的な判断
システム2:注意深く考えたり分析したりと時間をかける判断

人間の意思決定の標準はシステム1だが、システム1よりシステム2のほうが優れているというわけでもない。

「1425×79」を暗算する場合は注意深くなる必要があるが、「1+1」であれば計算するまでもなく「2」と一瞬で答えを出したほうがいいだろう。

すべてのことを注意深くじっくり考えていたら、何も決められなくなり、脳がパンクしてしまう。

システム1は決して無用のものではなく、人間に必要な思考モードとして備わっているのだ。

ただ、章の冒頭にあったバットとボールのクイズのように、システム1で判断することによって思い込みや偏見が生まれ、結果的に間違った意思決定につながることがあるのも事実。

なので、いつシステム1を使いがちかを知っておくことは、誤った判断をしないための重要な助けになる。

では、人はどんなときにシステム1を使いがちになるのか。

その疑問を明らかにした研究があり、結果の6つを以下に記しておくので、覚えておいてほしい。

■疲れているとき
■情報量、選択肢が多いとき
■時間がないとき
■モチベーションが低いとき
■情報が簡単で見慣れすぎているとき
■気力、意志の力(ウィルパワー)がないとき

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誘惑に弱い私たち

人は自分で思うほど、自制心が強くない。

なのに、「私は誘惑に負けない、衝動的な行動を抑えられる」と自分を過大評価する認知のクセを持っている。

これを行動経済学では「自制バイアス」と呼ぶ。

たとえばダイエット中の仕事帰り、疲れて空腹の状態でコンビニに寄るとする。

「明日の朝食べるヨーグルトを買うだけだ」と自分に言い聞かせていても、ついビールや脂っこい食材を買ってしまう。

……そのような経験はないだろうか。

このラインより上のエリアが無料で表示されます。

仮に朝であれば、元気でシステム2もよく働いているし、意志の力も強いはずだ。

「いやいや、ヨーグルトしか買わない」と自制できることだろう。

しかし、夜だって大丈夫というのは自制バイアス。

空腹で疲れていると自覚したときには、ヨーグルトだけ手に取って、後は何も見ず、考えずにレジに直行するべきだ。

「誘惑に弱いのに、誘惑に弱いことを理解していない」という非合理さに対処するには、誘惑されそうな状況に身を置かないこと。

何も買うつもりがないなら店に行かない。

誘惑に負けないようにしようと意志の力で頑張るより、「自分は誘惑に弱い」と認識し、仕組みを作ることのほうが大切だ。

ちなみに筆者は最近、「健康意識を上げて、間食をやめたい」という相談を友人から受けたそうだ。

驚いたのは、友人の家に大量にお菓子があること。

筆者はお菓子を全部手放すように伝え、どうしても食べたいときはお菓子を一つだけ買える程度の現金を持ち、歩いて買いに行くように勧めたという。

このように、行動をやめたい場合には、あえて「小さなひと手間」を加えることも効果的だ。

【2】状況

マイクロソフトが示した”平均24分”の衝撃

「注意力を妨げる要素はできる限り排除したい」

そう願いながらも、現実には集中できない状況に身を置いている人も少なくない。

多すぎる情報のせいで、人が非合理的な行動をしてしまうことを、行動経済学では「情報オーバーロード」と呼ぶ。

たとえば、人は一日に何通のメールを受信しているのか。

最近の調査によれば、ITエンジニア・弁護士・コンサルタントなど専門知識を元に知的労働をする「ナレッジワーカー」は、少なくとも一日に50回、多い人だと100回もメールをチェックしているという結果が出ている。

なるべくメールのチェックは減らしたほうが集中力が途切れなくていいし、生産性も上がることは頭ではわかっているのに、多くの人が何回もメールボックスを開いてしまう。

まさに「情報オーバーロード」。

しかも、メールの85%は2分以内に開封されているという。

実際、メールのチェックによって生産性が下がることがマイクロソフトの研究で示されている。

マイクロソフトの研究者による、同社の社員を対象とした調査では、受信メールによって仕事を中断すると、元の仕事に戻るまでに平均24分かかることが判明。

他の似た調査によると、会社の幹部の約80%は「情報が多すぎて意思決定に支障をきたしている」と答えている。

仕事の中断は就業時間の28%にのぼり、その大きな原因がメールという多すぎる情報なのだ。

しかし、考えてみてほしい。

大量のメールのすべてが、仕事の手を止めてまで開封しなければならないものだろうか。

インテルが従業員2300人を対象に調査したところ「受信メールの3分の1が不要なメール」という皮肉な結果が出ている。

こういった「情報オーバーロード」の弊害がわかっていても、多くの人が「仕事を上手く進めるためには膨大な量の情報が必要だ」と思い込んでしまう。

そのことを理解した上で、自分の意思決定において必要な情報を見分け、良いタイミングで時間をかける努力も必要だろう。

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選ぶなら ”赤身75%” と ”脂質25%” どっち?

「フレーム(枠組み)」で、情報のどの部分が強調されるかによって捉え方が異なることを指す、「フレーミング効果」というものがある。

「フレーミング」にはいろいろあるが、よく知られた属性フレーミングが「牛ひき肉」の例だ。

【買い物に行ったとき、あなたなら次のどちらを選ぶだろうか?】
A「赤身75%」と表示された肉
B「脂質25%」を表示された肉

実験では、AとBの2つを被験者に見せ、以下の4つのポイントから評価してもらった。

1「おいしそう/まずそう」
2「脂っこそう/脂っこくなさそう」
3.「品質が高そう/低そう」
4.「脂肪が多そう/少なそう」

Aのパッケージを見せた被験者は、「おいしそうだ。脂っこくないだろうし、赤身が多くて、品質が良さそう。脂肪も少ないだろう」と評価した。

もちろんBより高評価。

しかし、よく考えると2つは表現が違うだけで、内容は同じだ。

さらにこの実験では、以下の3パターンで、属性フレーミングがどう変わるかも検証された。

パターン1 パッケージを見ただけで、試食しない場合
パターン2 パッケージを見てから、試食する場合
パターン3 試食してから、パッケージを見る場合

3つのパターンを比べると、パターン1の「見ただけで、試食しない場合」が一番、属性フレーミング効果が大きく、「Aのほうがいい」とAに対する評価が最大に。

次にパターン2の「パッケージを見てから、試食する場合」は、パターン1より属性フレーミング効果が小さく、Aに対する評価も小さくなった。

そしてパターン3の「試食してから、パッケージを見る場合」は、属性フレーミング効果の影響がほとんどなかったのだ。

まさに「何」を「どう」提示するかで結果が変わる代表例といえる。

【3】感情

”淡い感情” が人の判断に影響する

行動経済学で言う「感情」には、喜怒哀楽のような ”はっきりとした感情” を意味する「(ディスクリート)エモーション」と、 ”淡い感情” を意味する「アフェクト」がある。

実は私たちは、アフェクトを頻繁に抱いているのだ。

たとえば、「ハンバーガーが好き」という人がメガバーガーを前にしたら「おっ」とちょっと気分が上がる。

タバコが苦手な人は「タバコ」と聞いただけで、ちょっと嫌な感じがする。

このようなほんの一瞬よぎる微妙な感情、身に覚えはないだろうか。

アフェクトは人間の非合理的な意思決定に大きな影響を与えるのだが、想像しやすいように一つ、カリフォルニア大学の実験を紹介しよう。

被験者に100分の1秒間、以下の写真を見せた。

■笑っている人の顔
■怒っている人の顔
■(人とは無関係の)図形

それぞれの写真の直後に、被験者には読めない文字(メソポタミア文明で使われていた古代文字)を2秒ずつ、次々と見せていく。

100分の1秒は短すぎるので、被験者は写真を見たことに気づかず、「いろんな文字(古代文字)を見た」とだけ思っている。

その後、被験者にそれぞれの文字についてどう思うか尋ねたところ、笑顔の写真の直後に見た文字に対して、「好き」と好印象を抱いた被験者が多いことがわかった。

被験者に見せていたのは、全く見たことのない古代文字で、本来なら何の印象を持つはずもない。

しかも「人の表情」と「文字」とは全く無関係のものだ。

それでも人の判断に影響を及ぼすのが「アフェクト」の力。

人の笑顔を見た一瞬のうちに心に浮かぶ、ちょっとした感情(アフェクト)が、全く関係もなく意味も分からない文字を潜在的に「好き」とまで言わせてしまう。

こんなに非合理なことはない。

アフェクトは潜在意識に働きかけるので気づきにくいが、とても大きな影響力があるのだ。

【あなたの次の読書リストに】

本書では、

【序章】本書といわゆる「行動経済学入門」の違い
①認知のクセ
②状況
③感情
【エピローグ】あなたの「日常を取り巻く」行動経済学

以上の序章+3つの章と、エピローグに分けて紹介されている。

本書の中には、写真つきで時計や水を高級に見せる方法なども載っており、有益なことは間違いない。

そもそも人間は、非合理的な意思決定をしてしまう生き物だ。

大切なのは、非合理さを完全に排除することではなく、正しく認識して良い方向に活用することである。

行動経済学を「単なる知識」で終わらせず、「使える教養」として身につけていただきたい。


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