閃光のハサウェイ そこに兵器があった

 数日前、特別上映が続いている劇場にて、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」を鑑賞しました。

 まだ観てない人には配慮しつつ筆を進めたいと思います。

 さて、ガンダムシリーズといえば富野由悠季監督の初代ガンダムから始まり、今なお様々な作品が作られているSFアニメシリーズです。

 その派生作品は多岐に渡り、漫画版、小説版で異なる展開をしているものがあるなど、もはや全貌を把握するのに苦労するコンテンツとなっています。

 今回の「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、その中でも初代の初代から続く、「宇宙世紀」シリーズの一角を担う作品です。

 映像作品としては新作ですが、原作はもっと前に富野由悠季監督に小説版が書かれています。

 ここではあまり詳しく触れませんが、この小説版と今回の映画版は厳密には時系列というより辿ってきた物語が異なります。

 閃光のハサウェイの前日譚的作品として「逆襲のシャア」というものがあるのですが、こちらが物語として2種類存在します。

 一つは映画版で、ストーリーとしてはアニメ版ガンダムの流れの中にあります。

 もう一つは小説版。こちらは流れや登場機体が映画版と大きく異なります。

 原作小説の閃光のハサウェイは、この小説版逆襲のシャアの続きの設定なのですが、今回の映像化にあたって映画版の続編ということに再設定されています。

 作画、作劇の良さの噂は耳にしており、期待値は上げておいて良さそうだとは思っていました。

 実際、作品はその期待値を大きく上回ります。

 やはりまず劇伴の素晴らしさに触れないわけにはいきません。

 「ガンダムUC」という劇場作品シリーズから音楽を担当している澤野弘之による劇伴は、ここにきてさらに上をいくかという格好良さを発揮しています。

 近年の洋画音楽を意識したとのことで、ストーリーを邪魔せず、かといって主張を抑えすぎているわけでもなく作品を彩っていました。

 特に低音を駆使した音楽はストーリーの空気感に非常にあっており、冒頭の音響でこれは良作だと確信できる作品でした。

 次に作劇の良さです。

 歴代ガンダム作品の中で、ここまでモビルスーツ(作中のガンダムなどの総称)が兵器としての圧を持って描かれたことが未だかつてあったでしょうか。

 全体像があまりはっきり映らないからか、これまでの作品だと薄まっていたように思う「人を殺す兵器」というモビルスーツの側面が、やや強調された作劇になっていました。

 冒頭で良作を確信したのは劇伴のせいだけではありません。

 YouTubeに冒頭15分が公開されているのでそこで確認して欲しいのですが、時計の針の音とともに宇宙空間の映像となり、ややうっすら響く低音と共に次に映るのは、月をバックに静音飛行するシャトルと、その護衛につくモビルスーツ2機らし
き機体。

 このシーン自体はわずか数秒なのですが、この場面の画が大変素晴らしく、一気に作品に引き込まれます。

 ここで機体がイマイチ判別しづらいのもポイントです。

 これまでの作品では、こういう場面の作劇は、モビルスーツの大写しからシャトルが映るなど、機体は判別できるくらいの角度で映る印象があります。

 しかし閃光のハサウェイでははっきり機体が判別できるシーンが少なく、どちらかというと戦闘シーンにおいてもモビルスーツよりその周囲の「人」が強調されていました。

 これが劇伴と相まって戦闘シーンの緊迫感を醸し出しており、終始独特の緊張感がある作りになっています。

 そして最後に、その緊張感を強調するのが「富野節」です。

 富野由悠季監督作品は、台詞回しが独特です。

 主語を省いたり、文脈を省いたり、省いたまま倒置を使ったり、無駄のないとはまた違った省略の台詞回しが特徴的です。

 オヤジにもぶたれたことないのに!!などが有名ですね。

 慣れていないと何を言ってるのかわからなくなりがちですが、よく聞くとそこまで意味不明なことは言っていないので、ぜひ聴き慣れて魅力に触れて欲しいです。 

 劇伴、作劇、富野節の三拍子が揃ったことによる格好良さ。それが作品全体に溢れているのが閃光のハサウェイです。

 近年のガンダム作品は特に、モビルスーツのロボットとしての魅力が先行しているような、娯楽コンテンツとしての戦争作品っぽさが目立っていたように思います。

 しかし、閃光のハサウェイに関しては技術の進歩を存分に利用した「兵器の恐ろしさ」を備えたモビルスーツの描写に成功していると感じました。

 劇場の音響で観るのがこれを最も味わう方法であるのは間違いないのですが、YouTube版でも冒頭の良さは伝わってきたので、DVD、BDでもその魅力は発揮されるであろうと思います。

 どうにかやりくりして購入したいと思います。

 ご興味があれば、ガンダムシリーズを観ている人であれば是非一度は鑑賞してください。

 それではまた。

 


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