「闘えない」チームの克服方法①【テクニックをスキルに変える】
技術は劣っていないのに、なぜか勝てない──。
他チームとの試合で負けたあと、こういうことが頭に浮かぶことがある。
試合前のウォームアップ(でのシューティングやドリブルワーク)、実際の試合中でのシーンなど、技術的にはこちらが上手に見えるものの、いざという場面で決して綺麗な形ではなくても相手にゴールを押し込まれ、こちらの攻撃を阻まれ…ということが続き、結果的に負けてしまう。
昔から、負けたチームがこうした状況を「気持ちで負けた」「勝負どころで弱い」「戦えていない」といった表現で総括することがあるが、「気持ち」はそれ以上分解できない概念なので、対策が的外れになってしまったり、何の対策もできないままになってしまう。
指導者として自分自身もこの状況に直面したことがあるが、この打開方法が少しだけ見えてきた(気がする。少なくとも現時点では)。
バスケは相対的な力で勝敗が決まるので、いま対峙している相手よりも強いチームと対戦すると同じようにはいかないかもしれないが、「気持ち」「戦え」る姿勢をどのように養うといいか、アイデアをメモしておこうと思う。
大前提:その技術は、「テクニック」か「スキル」か
この「スキルはあるのに勝てない」問題の大前提として、確認しておきたいことがある。それは、「うちの選手の方がうまい」の「うまい」が、ディフェンスありでの話なのか、ディフェンスなしでの話なのかだ。
最近はソーシャルメディアでいろいろなトリッキーなドリブルワークが紹介されていて、自主練用の教材がたくさんある。それらをどのくらいできるかどうかは、試合でのパフォーマンスと必ずしも相関があるとはいえない。
もし、「(ディフェンスなしでの)シュートやドリブルの技術は自チームの方が優れているのに、相手に負けてしまう」ということであれば、それは試合で役立つスキルになっていない可能性がある。
スポーツコーチングの研究(論文など)によると、技術にはいろいろな分類がある。その中で、試合で使えるかどうかという視点では、2種類の技術がある。
違いがわかりにくいかもしれないが、もう少し噛み砕くと、スキルは「何かの目的を達成するために使う技術」で、テクニックは「その技術を発揮すること自体が目的」だともいえる。
バスケは相手がいる競技なので、テクニックがあってもスキルがなければ試合では活躍できない。
たとえば、下のような感じで選手の技術を分析することができる。
「戦える・戦えない」の前に、もし自チームの技量を測るものさしがテクニックになっている場合は、「スキルの観点で判断して、自チームの技量がどのくらいか」を評価することが必要になる。
テクニックをスキルに昇華させる方法
この「テクニック・スキル問題」は昔からあったが、何度も書くようにソーシャルメディアでかっこいいドリブルワークやフィニッシュを紹介するショート動画がたくさん観られるようになったことで、より顕著になってきたのではないかと思っている。
これはバスケだけではなく、サッカーでも似たような傾向があるようで、こんなタイトルの本が出ていたりする。
じゃあテクニックは不要なのか、というとそうとも言えない。たしかに試合では"直接"役には立たないかもしれないが、間接的であれば役に立つ可能性がある。なぜなら、こうしたテクニックを練習することでコーディネーション能力が高まり、その結果としてトレーナビリティ(≒新しい技術を習得する早さ)の向上や、試合で咄嗟の動きができるようになることは間違いなくプラスになるからだ。
※ただし、そうした目的でテクニックを練習するのであれば、「1つのこと(ドリブル、フィニッシュ等)を完璧にできるようになるまでとことんやる」のではなく、「いろいろな種類のことを、できてもできなくてもいいから沢山やる」ほうが効果的だということがわかっている。
話を本題に戻すと、スキルを増やすには大きく2つのルートがある。
一つは直接スキルを獲得する方法、もう一つがテクニックをスキルに昇華させる方法だ(余談:前者はどちらかというと新しい考え方で、後者は従来からある考え方)。
課題解決型のドリルデザイン
具体的にどんな内容かは置いておいて、「ドリブルドリルを沢山やっているのに、試合だと思うようにできない」といったケースはとても多い。ドリブルに限らず、フィニッシュでもディフェンスでもスクリーンでも同じことが言える。
テクニックをスキルにするためには、「試合にできる限り近い状況」の練習をすることポイントになる。ドリブルを例にすると、次のようなドリルであればスキルが身に付けられる。
この練習は、「フルコートでプレッシャーディフェンスをされた」という状況を打開する(=課題を解決する)ことを想定している。もちろん実際には、それ以外の似た場面でも応用できるスキルが身に付く。
試合に近いという意味を拡大解釈しすぎてしまうと、「自由にフルコート1v1や5v5をさせるのが良い」ということになってしまうが、ドリルの自由度が高すぎると、選手にとって適切な課題設定ができなかったり、(パスをもらえないなど)課題自体が出現しなかったりするので、コーチが狙ったスキルを習得させづらくなる。なので、「そのスキルを使わざるを得ない」ように仕向けるというか、ある程度のルール設定が必要になる。
試合で起きうる課題を分析し
選手にとってちょうど良い粒度で切り取って
その場面で「指導者が使うべきだと思うスキル」が出せるように仕向け
課題を解決させる
この流れでドリルを考えれば、先に目的がくるので、技術は目的達成のための手段になる=テクニックが身につけられる。
この前段階として、ウォーミングアップなどでディフェンスなしで色々なドリブルをやっておけば、選手の事前インプットになる(特に競技歴が浅い場合は有効)。
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ちなみにこうした考え方をもっと詳しく、説得力ある理論として学術的にまとめているのが「エコロジカル・アプローチ」だ。
…前置きの章になるはずが、長くなりすぎてしまったので、続きは別の記事にて。
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