競馬の話。
スポーツは見ている人に”何か素晴らしいもの”を与えると思う。
2020年5月24日。
三歳の最も強い牝馬を決める競馬が行われた。
優駿牝馬(ゆうしゅんひんば)と呼ばれるそのレースは、日本中央競馬会(JRA)が東京競馬場で施行する中央競馬の重賞競走(GI)で、1965年から”オークス”の副称が付けられている。
第81回オークスの圧倒的一番人気馬は三戦無敗、単勝1.6倍のデアリングタクト。
デアリングタクトは一月前のG1レース、桜花賞では道悪の中、メンバー中”最速の上り”で後方から突き抜け、史上7頭目となる無敗のまま、桜花賞馬となった馬。
デビュー3戦目の桜花賞制覇は、グレード制が導入された84年以降では初。
鞍上はデビューからデアリングタクトを操る松山弘平騎手30歳。
2019年には91勝を挙げ、全国リーディング7位に躍進した期待の若手だ。
4月26日の京都1Rで騎手5人が巻き込まれる大きな落馬事故でケガをしたもののたった2週間でターフに戻ってきた。
自身初のG1レース1番人気のプレッシャーは相当あったはず。
オークスの距離は2400メートル。
4つのコーナーを回るそのレースはスピードとスタミナがないと勝てないレースでもある。
15時40分ゲートが開いた。
各馬一斉にスタート。
第1、第2コーナーまでデアリングタクトは馬群に揉まれる。
レース後のインタビューである通り、他馬との接触もあって後ろに下げての競馬に徹する松山騎手。
最終コーナーでは18頭立ての13番手。
騎手達は”それぞれの夢”と”色々な人々の期待”を乗せて走っている。
デアリングタクトに易々と道を開けるはずはない。
最後の直線、行き場を失うデアリングタクト。
僕も含め、誰もが”デアリングタクト、万事休す”と思ったに違いない。その時、馬群をこじ開けるようにデアリングタクトが伸びた。
わずかなすき間を縫うように、まさに疾風のごとく飛び出すデアリングタクト。
デアリングタクトはあっという間に先頭の馬を抜いてゴールを駆け抜けた。
ウィニングランで松山騎手は無人の観客席に向かってガッツポーズをした。
本来なら、身動き出来ないほどの人で埋め尽くされ、歓喜の声がこだましたはず。
でも、テレビの向こうにいた僕らには伝わった。
”信じていれば、道は開かれる。必ず”
絶体絶命に見えた瞬間の
”人馬一体の底力”
を僕たちは見た。
スポーツは見ている人を励ます。
勇気づける。
自分に置き換えて、”明日への希望”を見る。
デアリングタクト(Daring Tact)の 馬名の由来は ”大胆なTactics(戦法)”
初の左回りのレースも勝利し、2冠を達成したデアリングタクト。
無敗での2冠制覇は、63年ぶり2頭目の偉業達成。
素直に喜びたい。
凄いレースだった。