見出し画像

消えたお弁当。

コロナ・ウィルスの影響で飲食店の店先でお弁当を売る光景を見て思い出したこと。


僕に起きた”お弁当事件”について書いてみます。

何年か前、宅配のお弁当を食べていた時期があります。
月曜日から金曜日まで決まったメニューが一食届くタイプのお弁当です。
高齢者や生活習慣病の方が多く利用されている
”日々の食事にお悩みの方へ。管理栄養士が監修した低糖質・低塩分のお食事をご自宅にお届けします”という謳い文句の宅配お弁当サービスです。
父親が高血圧で具合が悪くなって検査入院した時、母親に”こーゆーのは遺伝だからね。お前も食事に気をつけないといけないよ”と言われたのが、始めたきっかけです。
(事実、健康診断で血圧が少し、平常値からはみ出していた)

そんなある日のことです。

”事件”が起こりました。

仕事が終わり、携帯を見ると見知らぬ番号から9回もの着信がありました。
伝言はなし。
(ちょっと怖い)

恐る恐るかけてみると、男の人が出ました。
「何度か電話をいただいているみたいなんですけど…」
男の人は「いつも、夕食のお弁当を配達している者です」と答えました。
僕の脳裏にロマンス・グレーの髪をしたオーバーミドルのおじさんの顔が浮かびました。

「あのー、実は…」
「ええ」
「お弁当がなくなってしまって、配達できません」
驚いて「どうしたんですか?」と僕が聞き返すと、
「色々、事情がありまして⋯」
(いや、その色々を話せよ)
「詳しくは話せないんですけど⋯」
(いや、そこ詳しく話すべきだろう!)
「で、」
(で?で?って何?でって?)
「代わりにコンビニで買った(お弁当は発砲スチロールのクーラーボックスの中に保冷剤と一緒にいつも入っています)お弁当を入れときました」
「…」
(まあ、何も入ってないよりいいけど。とんだ玉手箱だな)

家に帰って箱を開けると幕の内弁当が入っていました。
きっかり、配達用のお弁当と同じ値段の。
(フツー、お詫びのしるしは高めの弁当なのでは?あるいはデザートつけるとか。うーん、これなら、1食割引してもらった方が良かったなぁ⋯)

配達のおじさんとは以降、何度か顔を合わせることはありましたが、なぜか、その出来事にはまったく触れません。
(そのせつはどうも⋯とか実は⋯、すいませんでしたとか言わないの?もしかして、NGワード?)
おじさんは何もなかったようににこやかに挨拶するだけです。
(もしかしたら、僕の幻だったのかも)

仕方がないので、おじさんが”僕の弁当を配達できなかった理由”を考えてみました。

1 給食センターがゴジラかガメラ、あるいは他の怪獣に襲われ、半壊。僕の弁当だけ粉砕された。

2 「24」のジャック・バウアーらしき人物に『CTUだ、車を貸して欲しい』と頼まれ、クラッシュ、僕の弁当だけダメになった。

3 島根までヒッチハイクしようとしていた「鷹の爪団」を乗せたところ、吉田君が僕の弁当だけ食べてしまった。

4 道端で見かけたマッチ売りの少女らしき人物があまりに不憫でついつい僕の弁当を渡してしまった。

5 給食センターの従業員が僕の弁当だけ作り忘れた。

6 配達の途中、あまりにお腹が空いて、おじさんが食べてしまった。

7 配達の途中、弁当をひっくりかえしてしまった。

8 僕の弁当だけ置き去りに給食センターを出発した。
9最初から僕のお弁当は作る予定がなかった。


”じっちゃんの名にかけて”事件の真相を追及するべきだったのかもしれません。

1食税抜き540円。


謎は謎のまま、今日に至る。

この記事が参加している募集

スキしてみて