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形式的組織と感覚的組織のギャップ

今回は、いわゆるL&D(Learning & Development)の"D"の方。「組織開発っていうけれど、そこでいう『組織』って何を意味しているのだろうか」というお話。

何をDevelopするのか?

"Learning"はイメージしやすい。いわゆる研修にまつわる話に近い。ただし本当は"TrainingではなくLearning"という意味がそこに含まれている点は要確認だけれど。(以下記事ご参照)

一方、"Development"は何を意味しているのか?はイメージしにくいのではないだろうか。何をDevelopするというのかの認識はおそらく人によって、またはJDによって違う。Talent Developmentのこと、という認識が多いかもしれない。ただこれだと、"LearningとTalent Developmentの違いは?"という次なる疑問が生まれてくる。イコールではないだろうけどかなり重なるだろう。

私が考える"D"は、"Organizational Development"だ。世にいう"組織開発"がスコープに含まれている、と思っている。こう考えれば、L&Dは個人と組織両方に働きかける仕事だと捉えやすいと思う。("Development"、"開発"、という言葉は実は好きではないけれど、という別の話もあるがその話は以下記事にまかせて、今回はそこは掘り下げない)

個々人にとっての「組織」

で、そろそろ本題。この「組織開発」という領域を扱う場合の「組織」とはなにか?は、考えておく価値のある視点だと思う。

もし「それは会社ではないのか?」と思われたなら、もう少しお付き合いいただきたい。正確に言うならば、私がここで言いたい「組織」とは形式としての組織ではなく「個々人が所属意識を感じる組織」という意味だ。違う言い方をするならば、「あなたはどこに所属していますか?」と質問した際に頭の中に浮かんでいるもののことだ。これは実は、「会社」ではないことが多いと思っている。「会社」という単位は、特に大企業における「会社」という単位は、個人が自動的に所属感を感じるには大きすぎる。多分多くの個人が所属している感覚を持つのは、部署レベルだ。これは数人から数十人程度の規模感で、名前と顔が一致している。そして、その部署の中で日常的にコミュニケーションが行われている単位だ。

この「日常的にコミュニケーションが行わている単位」というのがポイントになる。もしある人にとって日常的にコミュニケーションを行っている単位が「会社内サークル(ゴルフ部とかテニス部とか)」であったなら、その人にとって所属意識がある組織は多分サークルになる。もちろん一つに決める必要はない。普通個人は公的/私的に複数の「組織」に所属感を感じているものだろう。家族だって仲良し友人グループだってPTAだってそうかもしれない。

いずれにせよ無視してはいけない基本認識は、個人にとって所属意識を感じさせる「組織」とは会社であるとは限らない、というかそうではないことの方が遥かに多い、ということだ。

所属組織意識が生み出すもの

なぜこれが重要なのかというと、人は「所属感を感じている組織の利益を優先的に考える」からだ。自分が「会社」に所属していると考えている人(社長とか)はもちろん会社の利益を考えるだろう。しかし、事業責任を持たされている事業部長にとってはどうか?おそらく事業部長にとっての組織感は「自分の事業組織」になっている事が多いだろう。つまり事業部長にとっての関心は「自分の事業にとっての利益」であり「会社の利益」「他事業の利益」は最優先ではなくなっている可能性がある。

ましてや各事業の中で働く個々人にとっては、「事業部」だって大きすぎる。事業部内の様々な部署に「所属している」意識を持った集団は、自部署の利益を最初に考える。これがいわゆるセクショナリズムだ。

セクショナリズムはけしからん、会社全体の利益を考えてほしい、というのは、多くの経営者の願いだろう。でもそれをいくら声高に主張しても、その主張は社員には届かない。なぜなら、メッセージが伝わるのは「所属組織内」だからだ。所属意識を感じていない外側からのメッセージは、「誰かがなにか言っている」程度にしか聞こえない。言うならば、なんのコネクションもない飛び込み営業から押し売りを受けているような気分にさえなり得る。

この「形式的な組織」と「感覚的な組織」のギャップは、組織開発がうまくいかなくなる要因として大きなものだ。にも関わらず、この「感覚的な組織」に焦点を当てて活動していくのは結構難しい。なぜなら、スポンサーとなる「組織開発をしたくなる人」(得てして経営者や経営に近い立場)にとっての「感覚的組織」は「(当然)会社や事業部」だからであり、そして社員も皆そうだろうと思っていたりするからだ。自分にとって意味する「組織」と社員にとって意味する「組織」が違うなんて思わない。

組織開発が扱う「組織」は「感覚的組織」

組織開発は、形式(ルールや仕組み、プロセス、組織構造)ではなく実質(意識、カルチャー)に働きかける手法だ。だから、組織開発を行うに当たって「感覚的組織」を捉えることは最重要だ。これが捉えられていなければ、「顧客は誰か」を捉えられていないのと同じことになってしまう。

ではこの「感覚的組織」はどうやって認識できるのか?実はそれほど難しくない。が、この記事でこのまま扱うと少々長くなるので、次回に回そうと思う。

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