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農業の人手不足はロボットで解決できるのか?

先ごろ、スマート農業技術活用促進法(農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律)が成立し公布されました。

この法律では、その目的を第一条で下記のように定めています。

この法律は、農業者の減少及び高齢化の進展、農業の分野における情報通信技術の進展、食料に対する国民の需要の高度化及び多様化その他の農業を取り巻く環境の変化に対応して、農業の生産性の向上を図るため、スマート農業技術の活用及びこれと併せて行う農産物の新たな生産の方式の導入並びにスマート農業技術等の開発及びその成果の普及を促進するための措置を講ずることにより、スマート農業技術の活用を促進し、もって農業の持続的な発展及び国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。

スマート農業といえば、自動運転トラクターやドローン、ロボットなどのハードの開発が想像しやすいでしょう。農林水産省の資料でもものづくり的な印象を受けます。ロボット技術は素晴らしいと思いますが、ハードが先にありきでは、現場への普及、定着に時間がかかると思います。

農林水産省の資料

農業は一年中同じ仕事をしているのではありません。作物の生産体系に合わせて播種や育苗、除草、防除、収穫など、ひとつの作物でも多くの工程があります。収穫も長い期間作業が続くような作物もあれば、数日で終わってしまう作物もあります。そして、その作業は近隣地域で一斉に行われるため地域内での機械の貸し借りは難しいと言えるでしょう。また、工程の一部が自動化されたとしても、その前後の工程とのつなぎが悪ければ、自動化が機能しないということもあります。

私自身も、かつて酪農業でバンカーサイロ内で稼働するサイレージの踏み込みロボット(トラクター)の開発に関与していたことがありました。ロボット・トラクターの制御には最新の技術が使われていました。また、人とロボットの協調などにも配慮され、良い技術開発ができました。

しかし、バンカーサイロにダンプカー運ばれる牧草が継ぎ目なく来てこその技術であり、牧草の搬入を待っていてはロボットが実施する効率性は得られません。また、トラクターにつける制御ユニットは牧草刈取時期にしか使えません。自動化された前後のプロセスが最適化されてこそ生きる技術でした。

スマート農業に参入しようとする企業や研究者は今後増えていくと思います。そのことは大歓迎なんですが、現場に必要とされる仕組みを整理、理解したうえで研究開発をしてほしいと思います。そうでなければ、せっかく開発した技術や製品が現場で使われることはありません。

また、農業の現場では長い間、慣例として実施されていたことが数多く残っています。長年のやり方を変えるというのは農業者にとって大きなストレスになります。さらにその慣例を維持するための組織やデータなどの既得権もあるかもしれません。そのあたりの事情を理解することも重要です。

スマート農業を導入するためには、地域農業の実情を理解し、合意形成を得る必要があります。段階的かつ戦略的なスケジュールを作るためにも、まずはロードマップを作成することをお勧めします。


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