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【11/13 国際男性デー記念イベントレポート】これからの男子はどう生きていく?Future of Manhood <第1部>

Lean In Tokyoでは、11/13(土)に、11/19の国際男性デーを記念して、オンラインイベントを開催しました!今回のテーマは「これからの男子はどう生きていく?Future of Manhood」。第1部では、男性学研究者の田中俊之先生をゲストにお迎えし、「男性の生きづらさと」女性の社会進出について、様々なお話を伺いました。さらに第2部では、男の子の母親×令和の20代男性×現役学校関係者によるパネルセッションも行いました。イベントの様子を、第1部、第2部に分けてレポートします!

<第1部>田中先生Keynote Speech ―「男性の生きづらさと」女性の社会進出

【ゲストプロフィール】

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ジェンダー問題の見方

◆ 面倒なことを女性に任せてしまっていないか?

冒頭、「これまで男性の自立において何が問題だったのかを理解し、現在までどのように変わってきたのか、変わっていない点は何かを考えることは重要」として、以下のチェック表のご紹介がありました。

【男性自立度チェック表】
☐ 1. 電気掃除機を使うことができる
☐ 2. ご飯を炊くことができる
☐ 3. ボタンつけができる
☐ 4. 仕事以外の親しい<現在も付き合う>友人が複数いる
☐ 5. 役所への諸届けはひととおりできる
☐ 6. 自分の飲むお茶は基本的に自分でいれる
☐ 7. 一人で夕食の材料をそろえることができる
☐ 8. よく一人でスーパーの買い物に行く
☐ 9. 収集日にはよくゴミを捨てに行く
☐ 10. 自分の背広・ネクタイ・靴下・下着がどこにあるかわかる
出典: 伊藤公雄(2002)『「できない男」から「できる男へ」』小学館

「上記の項目は、今の男性はできるようになったかもしれませんが、例えば日々の献立を考え、食材の在庫を把握し、買い物の指示を出すところまでは妻にしてもらって、自分はスーパー食材を買いに行くだけということはないでしょうか?」との問いかけとともに、この20年で進歩しているものの、面倒なことはいまだに女性に任せてしまっているという問題がある点を認識しておく必要性に言及されました。

◆「男性は仕事一辺倒であるべき」というバイアス

ジェンダー問題のもう一つの大きな障壁として、男性は仕事一辺倒であるべきというバイアスがあるという田中先生。長らく放置されてきたこの問題を、サザエさんの事例に絡めてご説明いただきました。

「とある回では、フネの不在時に波平が、爪を切りたくても爪切りの場所すらわからずに困ってしまいます。さらに波平が電車にのると、「濡れ落ち葉※」の話をする女性たちに出会い、自分もこのままではまずいと焦ります。しかし、その晩家に帰ると、わかめちゃんとタラちゃんが「お父さん/おじいちゃんが家に毎日いたら嬉しい」と言ってくれる。家事も育児もしないで生きてきた波平が、毎日家にいたらフネさんの苦労は増すばかりでしょう。「家にいてくれて嬉しい」などと手放しで言えるものではないはずです。

ただ、「どうして波平のような男性が生まれてしまうのか」は考える必要のある重要な論点です。その背景には、「男性は働くのが当たり前であり、働いてさえいれば家事や育児をしなくても責められない」という社会的に共有されたルールがあると考えられます。裏を返せば男性が働くことに対して手を緩める・辞めると責められる、ということになります。例えばニュースで「容疑者は40代無職男性」と言われると妙に納得してしまうのも、「まともな40代男性なら働いているはず」というアンコンシャスバイアスからくるものです。」

※🍂「濡れ落ち葉」とは、80年代に定年退職したお父さんたちが、これまで仕事ばかりしてきた結果やることがなく、妻にまとわりつく様子を、どんなに掃いてもまとわりついてくる濡れた落ち葉に例えた言葉。

ジェンダー問題を是正し、女性の社会進出をより進めるためには、面倒な家庭のことは女性に任せてしまうという問題とともに、男性へのアンコンシャスバイアスへのアプローチも重要であるというお話がありました。

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「ジェンダー平等」という言葉の示す2つの課題

ジェンダー問題の難しさには、「ジェンダー平等」という1つ言葉が複数の事柄を表していることも関係しているといいます。この問題点のポイントを以下のとおりご紹介いただきました。

▩ ジェンダー平等の達成には、①女性差別の解消と②LGBTQ差別の解消が必要。しかし、①は男性/女性という二分法を使用するのに対し、②は男性/女性という二分法に異議申し立てを行うもの。
◾ 二分法は、ジェンダー統計に基づいて格差を解消しなければいけない問題へのアプローチに必要。
(例)国会議員における女性の数を増やしていくことで、女性が政権を握ることへの違和感をなくしていく。それと同時に、「男と女という二分法は暴力的である」という論点を議論することは難しい

⇒ ①と②それぞれの目標を達成するためには、「ジェンダー平等」と一言ではなく、分けて考える必要がある。

男性学の課題

続いて、男性学において考える問題と、その課題についてご説明いただきました。

▩「男性問題」=男性が男性だからこそ抱えてしまう問題
◾ ここでいう男性は、社会的に超マジョリティーであるシスジェンダー、ヘテロセクシャルの男であり、男性の「加害者性」を考える必要がある。しかし、それだけを問うのであれば、フェミニズムの議論と一緒。
◾ 男性学では同時に、男性の生きづらさといった「被害者性」も同時に扱うが、男性よりも女性の方が大変という指摘を受けることも。

⇒ 男性学の議論を始める前に、自分の立場を整理・打ち出すのに時間がかかってしまうことが課題となっている。

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男性学を通して実現したいフェアな社会とは?

さらに、田中先生が男性学を研究される理由と、実現したい社会についてお伺いしました。

Q. 田中先生が男性学を研究テーマとして選ばれた理由とは?
A. 高校生の時に女性の多い吹奏楽部に入りました。先輩から「女は感情的だから気をつけるように」と言われ、当時は自分もその考えに同意していました。このように「女はこうで男はこう」という固定観念を強く持っていたのです。そんな中、大学で社会学を専攻。社会学は、みんなが当たり前と思っているものに対して、どうしてみんながそう思うのか?を考える学問です。その切り口からジェンダーを考えると、「男と女という分類への考えを、自分含めた多くの人がなぜここまで問題視せず信じているのだろう?」ということに興味が湧きました。そして、誰かの犠牲のもとに自分が快適になることに違和感を抱き、自分がマジョリティーの男性としてこの課題に対してできること、すべきことはなにかということを考え、マジョリティーの世界がどう成り立っているかを内側から密告していきたいと思うようになりました。

Q. 男性が「生きやすい」社会とは?
A. 考え方としては、二つあります。1つは、女性差別を前提として、男性が優位な社会を維持し続けることで「生きづらさ」を解消する形。これは医大の入学試験で女性が差別されていた問題に代表されるものですが、男性が下駄をはかせてもらうことで権力を持ち、「生きやすく」なるというものです。もう1つは、女性差別を解消して男女が対等な関係になることで権力を手放し、「生きづらさ」を解消することです。例えば、男女の収入格差により男性が育児にコミットする選択をしづらいという状況を解消し、仕事中心という「生きづらさ」を解消するものです。

Q. LGBTQ差別の問題は男性学では扱えないのか?
A. 12月発売予定の周司あきらさんによる『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』(大月書店)に、現状の男性学の問題点が示されていました。当事者である男性に関心を持ってもらうために、これまで「男性あるある」をフックにすることがありましたが、それがトランス男性にとってはあるあるではなかったというのです。LGBTQ差別の問題も、男性学も、ゴールとして、性別の問題だけではなく、障がいの有無、国籍などを含めて誰にとってもフェアな社会の実現を目指すことが大事です。そのためにも、様々な立場の人が男性学に参加するのは良いことだと思いました。

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これからの時代を生きる男の子たちとその親たちへ

最後に、これからの時代を生きる男の子たちとその親たちへとして、3つのメッセージを頂きました。

プライドを確立しよう
「男は長らく競争の中で勝利することを目指してきました。しかし、こうした人との比較で自分の位置を決めることで得られるのはただの見栄です。個人でしっかりとやってきた譲れないことを持ち、周りにどんなに煽られても自分はこうといえる「プライド」を確立してほしいと思います。」

自分の中の多様性を認めよう
「男の子がバレエを習いたかったり、プリキュアが好きだったりすることもある。その個性を否定することはもったいないです。自分の中の多様性を享受しましょう。」

人のために行動しよう
「ディズニー映画のプリンセスは、時代を追うごとにどんどん強くなってきました。これはこれまで女性は利他的であるべきと言われてきた中で、自分の幸せのために利己的に行動してもいいというメッセージだと考えています。同時に男の子たちには、利己的に生きることが認められてきましたが、人のために利他的に行動できるようになり、仲間の中で認められることで、自分も幸せになれるということを学んでいってほしいと思います。」

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講演の後には、「男性の生き方の選択肢は達成か逸脱の2つしかないのでしょうか?」「男性がフェミニストになることは可能でしょうか?」など、参加された方々から多くのご質問が寄せられ、田中先生のお考えをさらに深堀すると同時に、皆さんの関心の高さを伺うことができました。

次回の投稿では、第2部のパネルディスカッションの様子をご紹介します!

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