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スポーツパフォーマンス向上のトレーニングとボディビルトレーニングの違い

大阪〜神戸で活動して25年目に突入!パーソナルトレーナーのたかつです
スポーツトレーナー学院で校長をしたり、パーソナルトレーナーの寺子屋というオンラインサロンを運営しています。
こちらのブログはフィットネスの世界で働く方、働きたい方、NESTA等パーソナルトレーナー資格をお持ちでスキルアップ、キャリアアップを考えている方向けに書いてます。

去る、12月9日に日本スプリント学会に4年ぶりに現地参加してきました。
会場は京都の同志社大学。学生時代を京都で過ごした身としては懐かしい気分になりました。

現地でのレポートをまとめることで、自分なりに現場に活かせそうだなと思ったことを綴りたいと思います。
どうぞ、最後までお付き合いください。

基調講演

「世界への本格的挑戦の始まり」と題して、レジェンドスプリンターの朝原宣治さんの講演が、レジェンドハードラーの谷川聡さんの司会により始まりました。朝原さんといえば今回の会場である同志社大学の出身で、大学3年時に国体で10秒19という当時の日本記録を叩き出されたわけですが、競技生活の前半はどちらかというと走り幅跳びに軸を置かれ、その余白で100mにチャレンジされていた選手です。

朝原宣治


懐かしい映像とともに当時を振り返りながら貴重なお話の数々でしたが、私が注目したのはまず、キャリアごとに心技体の完成していく様です。

キャリアの前半は走り幅跳びに軸を置かれていたこともあり、スタートからの組み立てはトップスプリンターとしては見劣りするものの身体能力で100mを走られていたということ。おそらく肉体的な最初のピークが25歳ごろに現れていたように感じます。踝の骨折で2年の休息期間ののちをキャリア後半とすると、ここからは技術的な高まりが映像からもみて取れました。スタートからの組み立てがうまくなり、かつ走法もどちらかというと力みの少ない省エネ走法になっていました。これはご本人のお話にもあったように、予選から準決、決勝とラウンドを重ねていくのに若い時ほど回復しなくなっているためそのように心がけていたようです。
2007年の世界陸上大阪大会では「心技体」の特に、心と技が完成された感じがありました。
翌年の北京オリンピックでは、皆さんの記憶にも焼きついているアンカーで失踪しメダルを獲得し喜びを爆発させられたあのシーンです。

次に、印象に残ったのは、この時から「海外のコーチ」をつけ、海外を転戦することで常に世界のトップクラスを身近に感じながら練習や試合をされていたという点。今でこそ多くのスポーツで早くから海外に出る若者が増えましたが、朝原さんの活躍された時代で陸上選手が海外を拠点にというのは情報も少ない中大半だったと思います。そういう意味においても、道を切り開いたお一人であるということがまた改めてこの講演で認識することができました。

シンポジウム

「スプリントにおけるバネの制動」というタイトルで、三人の先生からそれぞれ違った視点でお話を聞くことができました。一つ一つの詳細は省きますがこの中で私が印象に残っていることをまとめます。
陸上競技を始め、多くのスポーツでは「バネ」のある選手は能力が高い印象を持っています。打つ、投げる、走るにおいてこの「バネ」というものがパフォーマンスに影響を与えていると感じます。「あの選手はバネがある」「あの選手は全身がゴム毬のように弾む」といった表現でバネがあることが良い選手である印象を持たせてくれます。ではいったいそのバネってなんなのか?というものを紐解いていく。そんなシンポジウムとなりました。

人の体で「バネ」として作用する組織は「腱」があげられます。ふくらはぎのアキレス腱は「弾性組織」として有名ですね。バネ作用を発揮するには筋のストレッチング(脱力)とアイソメトリックによる筋力発揮(腱の伸張)からの腱による弾性エネルギーの放出という流れになります。
陸上のスプリントで考えると、スタートからの加速局面では股関節周辺の筋の力発揮による部分が大きく、ジャマイカのアサファパウエル選手は大腰筋が、またウサインボルト選手は内転筋が特に発達していたようです。そしてスプリントが最高速度に達する中盤以降は、腱のバネ作用によってスピード維持をしていると考えられます。
アキレス腱を例にしましたが、ヒトの体にはバネになるものがそのほかにも多数あると考えられており、アキレス腱の流れいえば、足底までをも含んだ足部全体がバネ作用を有するようです。またここ10年で注目されるようになった「筋膜」も解剖学の視点からバネ作用に寄与しているのではないかというお話があり、皮下組織よりさらに深部にある深筋膜がそれにあたると考えられています。
下肢に着目したら腸脛靭帯にあたる部位が脚全体のバネ作用に関与してそうだということでした。
最後にロボット工学からの観点から見たバネ作用についての講義があり、非常に面白い視点でした。
現場でバネ作用を活かすことを考えた場合に大切なことは、主動作前の抜重、つまり力を抜くことと力を入れるタイミングというスキルが必要であること。
これは力学的な最適解として、共振現象(ある作用により物体が同時に震える)が起こること。体重やバネの硬さなどこ個々人の最適なものがあると考えられ、それをプライオメトリックスなどのトレーニングを通じて掴むこと、なのかなと解釈しました。

ボディビルディングのように「筋肉」を鍛え育てることを主眼としたトレーニングと決定的に違うのは、筋肉が力を入れている時間より腱等のバネ作用のあるものを最大限利用するための最適なタイミングが大事であること。
(筋力)トレーニングの方向性を間違えないようにしたいものだと改めて意識することができる時間となりました。

研究発表

後半は、1)実験・自然科学系 2)実践・コーチング系 それぞれに14本の発表が行われました。
前足部の接地パターンから、速く走るための新規アプローチがとても興味深く、実際に多い接地パターンより、少数派の接地パターンの人の方が100mのタイムが良かったというデータを示されていて多くの人ができないからこそ他人よりも速いのかもしれないと思いました。この少数派の接地の仕方というのはいわゆるバネを効かせるのに有利なのかもしれないなとも思ったりした次第です。
どうやら、この論文が今回の14本の中で、学会賞を受賞されたと後日知りました。
そのほかにも、歩き方、走り方に言及されたもので、いわゆる蹴らない歩き方についての解説は、エビデンスが揃っているものではないものの、私も普段の指導で心がけているような楽にスムーズに動くために必要な視点で共感を得るものでした。

長丁場ではありましたが、非常に有意義な時間となりました。

日本スプリント学会


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