構文病【うたすと2】
SNS上で生み出された『インプレゾンビ』。
広告収益を得るために理解不能な行動を繰り返した人間たちはいつしか、とある奇病に悩まされることになった。
『インプレ構文病』である。
現実での言動も、あの独特の言い回しになってしまう。軽症ならばそれだけの病気だが、それにより社会的地位を追われる人間も、死に至る人間もいた。
葉留花がそれに気付いたのは、月の綺麗な夜だった。
彼氏が、いかにも『港区女子』という女と歩いていた。それを追いかけた葉留花が問いただすと、
「それは私に幸福を得ます」
と彼は言った。その言葉を聞いて、港区女子は急いで江東区へ帰っていった。名前と生息地が違うのも、まあよくあることだ。葉留花は、愕然とした。
「ケンくん、インプレゾンビだったの…?」
「それはあなたに面白いです。」
泣きながら彼は例の構文を話す。腹立たしいやら、悲しいやら。とにかく病院に連れて行かねばならない。
「憲一さんは、重症です。」
医者は、沈痛な面持ちでこう言った。
「…そんな。進行したら、どうなるんですか?」
「次第に、意味不明なハッシュタグをつけ始めます。サレ妻の愚痴しか話さなくなり、最後には……。」
「最後には…どうなるんですか?」
「眉毛が濃くなり、端正な髭を蓄えた後、死に至ります。」
「…そんな、そんな、嘘!」
医者は私の手をとり
「あなたにも、協力してもらいたい。」
と言った。
「私……私、なんでもします!!」
医者は頷くと、葉留花にメモを渡した。
「これらを、手に入れてほしい。」
葉留花はそれを見て、病院を飛び出した。
タクシーをつかまえ、行き先を指示する。急がなければ、あの爽やかな憲一が、立派な眉毛と髭を生やして死んでしまう。
「お願い、急いで!!」
葉留花は叫んだ。
「買ってきました!!」
葉留花が病院に戻ったとき、憲一は既にサレ妻の愚痴しか話せなくなっていた。そこいらの壁に、見たことのないハッシュタグを書きまくっている。
「…よし、間に合った。」
医者は、カルビとチョレギ、そして生ビールとハイボールをミキサーに入れ、スムージーを作った。それをピッチャーに入れて、憲一に飲ませる。憲一はひどく苦しそうだ。
「全部飲ませなければ!」
医者が叫んだ。右の眉毛が濃くなっている。もう、時間がない。
スムージーを飲み干した憲一が叫び声をあげた。
「…治った、の?」
「いや、まだだ!最初の一言を聞かねば、まだわからない…。」
憲一はあたりを見回し、
「A5のメンズ」
と言った。そのまま眠りに落ちた。
医者は葉留花の手をとり、
「もう大丈夫ですよ。」
と笑った。こうして、葉留花の長い夜は終わった。
憲一の体調は回復したが、後遺症が残った。
『開示請求』という言葉を聞くと、ほんの僅かの間、眉毛と髭がふさふさになる。たったそれだけの後遺症だが、彼がインプレゾンビであったことの証明になった。
葉留花は、結局憲一と別れた。
憲一が港区、もとい江東区女子との関係をずるずると続けていたからである。
今日も葉留花は一人焼肉をしながら、呟く。
「いんぷれっしょん ほーみたい」
了(1251字)
#うたすと2
こちらに参加させていただきます。
あとがき
『葉留花』は、日向坂46の山下葉留花さんから名前をお借りしました。
はるはる。いい意味でぶっ飛んでると思う。ときどきアイドルを超えた何かになっている、気がする。これからも応援してます。
こちらの曲を元にした話です。
名曲。最近鼻歌で歌っていて、コンビニの店員の方に何の曲か訊かれた。
リアル彼氏がインプレゾンビだったら、何か切ない…。と思い、インプレゾンビの実生活に影響を及ぼしてみた。自分で書いておいてアレだけど、治療薬絶対不味いよね。それぞれ別に食べたい。
最近、こういう(いい意味で)振り切った作品が書けているのは、出来如何に関わらず楽しい。
そして何より、こういった企画参加は本当に楽しい。また参加させてください。
いただいたサポートは、通院費と岩手紹介記事のための費用に使わせていただきます。すごく、すごーくありがたいです。よろしくお願いします。