【空想エッセイ】昨夜の話(3)
「ナ…ルぅ…」
聞き覚えのある声に窓を開けると、ずぶ濡れの夜行が立っていた。
「夜行さん!…なんでずぶ濡れ?」
僕はタオルを渡しながら尋ねる。ビール、ビールと…。
「…今日は、酒はいい。」
驚いて振り返ると、夜行は泣いていた。大きな一つ目から、ぼろぼろと涙があふれている。
「…なんかあったの、夜行さん?」
「うう…。」
夜行は答えてくれない。どうしたものかと悩んでいると、窓をノックする音がした。
「ぬらりひょん、イッポくん!」
「夜行について、わしが説明してやろう。」
そう言うと、二人は夜行の隣に座った。イッポくんが夜行の背中をさすっている。
「夜行はな、相棒と喧嘩したのじゃ。」
「相棒って…、あの首切れ馬?」
ぬらりひょんが頷くと、夜行は声を上げて泣き出した。
「おお…俺が、俺が悪いんだ…。あいつにいつも、ナルの土産をあげなかったから……。」
「土産って、お酒?」
「そう…。あいつは俺と一緒で、無類の酒好きなんだ…。それなのに、それなのに」
うぉぉぉん。子供のように泣いている。
僕はぬらりひょんを手招きし、耳打ちした。
「ずぶ濡れなのは?」
「今日、ここに来る前に、川の上で振り落とされたそうじゃ。」
「あぁ、なるほど。」
ぬらりひょんと話している間も、夜行は泣き続けていた。イッポくんに抱きついている。
「…どうしよう?」
「まあ待て、ナルや。もうすぐ来るはずじゃ。」
そのとき、窓の向こうで何かが落ちたような音がした。窓を開けると、一つ目小僧と首切れ馬がそこにいた。
「いたた…。」
一つ目小僧は腰を押さえている。どうやら、振り落とされたらしい。
「相棒!!」
夜行は首切れ馬に抱きつこうとして、盛大に蹴られた。ものすごく怒っているようだ。
「ナルさん、出番っすよ。」
イッポくんが僕の背中を押した。一つ目小僧とぬらりひょんまで、一緒になって僕を押している。
「わっ、えっ、ちょ…。」
首切れ馬は、苛立っているのか足を踏み鳴らす。僕は咄嗟に買い置きのビールを掴み、首切れ馬に見せた。
「ベアレンの『シュバルツ』。黒ビールだよ!」
たった一言で、戦いは終了した。
「いやあ、ありがとうな。ナル!!」
夜行はハイペースで僕の買い置きを飲んでいる。首切れ馬の機嫌が戻ったことで、すっかり元気になったようだ。
「あっ、それドイツの美味いやつ…。」
「まあ今日は許してやっとくれ。」
ぬらりひょんが僕の肩を叩く。まあ、仕方ないか。
見ると、イッポくんは何も食べていない。その隣で一つ目小僧は、さいとう製菓の『かもめの玉子』を食べている。
「イッポくん、ビールもお菓子もあるよ。」
「あ、じゃあビールを…。」
今日は朝までコースかな。久しぶりににぎやかで、楽しい。昔はこういうのが好きだった。今は、人と飲むのは嫌いだ。
「ナルさん、もっと。」
一つ目小僧は『かもめの玉子』を完食していた。
「はいはい、次はこれ。」
岩手県軽米町で販売されているサルナシのお菓子。その新作であるポップコーン。とっておきだ。
「見たことないやつだー!!」
そうして、夜は更けていった。
気がつくと、朝になっていた。部屋には僕一人。
テーブルの上には空き缶・空き瓶の山と、一枚のCD。
日向坂46の新譜『絶対的第六感』だった。
イッポくんかな。そう思いながら裏返すと、一枚のメモが貼り付けてある。
「ありがとう。 夜行」
僕は嬉しくなって、窓から空を見た。
早く、夜にならないかな。
買い置きのベアレン『シュバルツ』が、すべてなくなっていることに気付いたのは、この一時間後だった。
了
あとがき
今回は、岩手銘菓とビール、そして日向坂46の新曲『絶対的第六感』の非公式宣伝記事となっている。
…え、ふざけているのかって?
そうだ。
いたって真面目にふざけている。というか、仕方ないじゃないか。昨日の実話なんだから。昨日はどんちゃん騒ぎしたんだ。妄想だけどさ…。
ちなみに、夜行は首切れ馬とセットで語られることの多い鬼だが、地域によっては首切れ馬そのものが夜行と呼ばれている。この世界ではそれぞれが独立している。
なお、作中に出てくる『サルナシ』は、キウイフルーツを小さくしたような果物で、岩手県軽米町の特産。町内の産直では、これを使った菓子類を買うことができる。作中のポップコーンは新作。他にもアイスなどさまざまある。
さいとう製菓の『かもめの玉子』は、かなり有名なのでご存知かもしれない。上記のサルナシを使用した『さるなしたまご』も、軽米町で買える。さらに、『かもめの玉子』のバリエーションとして、『翼竜の玉子』という商品もある。気になる方は是非。
というわけで、今回の妄想、いや空想エッセイはこれで終わり。
紹介したお菓子とビール、そして『絶対的第六感』を気に入ってくれたら嬉しい。首切れ馬に乗って、ビールを届けに伺う(冗談)。
最後に『翼竜の玉子』を紹介したついでに、翼竜の出てくる僕の作品を紹介して終える。これ、今(閲覧数)一番人気なんだぜ……信じられねえよ…。
ナル三大問題作のうちのひとつ。読んでくれたら幸いである。
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