収束【うたすと2】
カーラジオから「彼ピ・ピ・ピ」とお洒落な歌が聴こえている。
あれから、あまりに色んな出来事が起きた。
『風雷の歌』から復活したダグラス・F・フォックスは、かつてインプレゾンビのために編成された特殊部隊によって捕縛され、消滅した。
彼は、有毒ガス鎮圧のために水没した町から地球を再構築するつもりだった。彼の力で生み出した『惑星開発キット』を使って。
水没した町に『いた』一人の女性と共に、ダグラスは創造神になることを試みた。アダムとイブのように。
だが、その試みは『スズランの花束』によって記憶を取り戻した女性によって、打ち砕かれることになる。
彼女は、水没した故郷、そしてこの世界を愛していた。だから、ダグラスを拒絶した。ダグラスは、アダムにはなれなかった。
彼にとって拒絶は予想外だったようで、その後は抵抗することなく捕縛された。
たった一人の女性の思いが、この世界を救ったのだ。
特殊部隊の男は、相棒だというサタデーナイトスペシャルの手入れをしながら僕に言った。
「思いこそが全てなのさ。歌にも、物語にも、心が通っているからこそ意味がある。そう思わないか?」
『開示請求』という言葉を聞くとふさふさになる眉毛を撫でながら、彼は笑った。焼肉でもいかが、と言うと彼ははにかんで
「葉留花が待ってる。浮気性だったから、今は早く帰らなきゃ」
と言った。
あの『スズランの花束』は、とある男性の持ち物だった。
「これは、京子そのものなんです」
男性は言った。甦った恋人が、たくさんのスズランとアマリリスになった。そして、その花はけして枯れないのだと。
「…信じてくれますか?」
そう笑った彼は、やさしい顔をしていた。これから、漫画家夫婦の結婚式に行くのだという。
「『Simply』っていうんです。これ、新刊ですよ。差し上げますね」
そう言って彼は漫画をくれた。そのタイトルは『歌姫たちへ』。
あの一件で、VBR装置は開発と使用を禁じられた。
惑星開発キットはダグラスが消滅しても消えず、政府の管理下に置かれている。悪用されないことを願うばかりだ。
僕はあの本を手に、VBR装置のある場所を目指していた。
影山さんは、僕を見て深いため息をついた。
「…本当に使うんだね?」
「はい。この本の世界に行かなければ」
「…わかった」
影山さんはすぐに装置を作動させた。僕は、あの真っ白い本をセットする。
0と1の羅列。刹那の先に、あの世界は訪れた。
言葉たちが流れていく。
この期間の間、多くの人々が紡いだ物語が、命を育んでいく。
歌声は春風のように、僕の頬を撫でた。
「Simply」
「ウチの彼ピはインプレゾンビ」
「Bouquet de muguet」
「風雷」
この風がまたどこかで、誰かの心を甦らせるのだろう。
あのときと同じ声がする。
「ここに綴る言葉は、決まりましたか?」
僕は、目の前の真っ白い本に手を伸ばした。
そこに、僕が記したのは――。
了(1182字)
#うたすと2
こちらに参加した作品です。
あとがき
開催期間もあとわずかということで、発表させていただいた8作品の世界の『その後』を、最後に書いてみた。なので、4曲全てを基にしている…と言ってもいいのだろうか。
僕の『うたすと2』参加は、これでラストになります。
あの作品のアイツとアイツ、同一人物かよ!とか、知り合いかよ!とかツッコミが聞こえてくる…。作者としては、一番納得のいく展開にしたんだよ…。全作品出したかったんだもん。
最後に彼がどんな言葉を記したか。それは、皆様のご想像にお任せしようと思う。皆様に、それぞれの正解があるはずだ。
(元)日向坂46の皆様からお名前を借りているが、そのお礼と思いは個々の作品のあとがきに任せる。みんな、大好きだよー!!
さて、楽しんでいただけたか不安な割に、それはたくさん書いた。
閲覧数やスキの数こそ差があるが、どれも大切な作品になった。
参加させていただき、本当にありがとうございました!!
挙句、『空想エッセイ』まで使って…ちょっと調子に乗りすぎたでしょうか…ごめんなさい……通信簿にも「すぐ調子に乗る」って書かれたのに………。
また何か企画がありましたらお声をかけていただけると、とても嬉しいです!喜んで参加します。
それでは、いつかまた。