【SS】Loopする彼【イメージ:二次創作】
凡造、と名前を呼ばれて僕は振り返った。
沙綾が僕を見つめて立っている。白愛大学の構内。
僕は何度この光景を見ただろうか。
他の誰も気付いていないことだが、僕らは同じ『今日』を繰り返しているようだ。
十回目までは数えていたのだけど、途中で飽きてやめた。
タイムループというと狂う人がいたりするのがフィクションの定番だけれど、僕には案外居心地が良いものだった。
最良の『今日』を見つけるため、さまざまな選択肢を試してきた。実を言うと、僕の行動が世界を滅ぼすパターンもある。何度目かのループのとき、僕は世界を滅亡させてしまった。
ほんの些細な行動で、容易く世界は変わるのだ。
いつもと同じ言葉を交わして、僕たちは別れる。沙綾は正門に向かって歩く途中で、足を滑らせて転びかける。3、2、1…。
ほら、やっぱり。振り返って気まずそうに笑って、駆け足で去っていく。
色んな選択肢を試したが、この後はこのまま5分だけここにいるのが最善だった。あと3分で友也がやって来て、購買で買い過ぎたカツサンドを分けてくれる。そのすぐあとで美桜が彼を追いかけるように走っていく。その途中で僕にチョコレートをくれる。
無料で昼食とおやつを手に入れるルートだ。
ちなみに5分以上ここにいると、白愛大学の存亡を巡る大騒動に巻き込まれる。その話は気が向いたら。
友也を追いかけ走っていく美桜を見送って、僕は反対方向に歩き出す。カツサンドを頬張る。
この繰り返しの日々に、そろそろ飽きてきた。
実を言うと、タイムループの終わらせ方はとっくに知っている。
このループの間にキーボードの腕も磨けた。「Rainbow▽Icecream」内の人間関係を俯瞰するのも面白かった。明日から顔に出さずいられるだろうか。
今日は何度も繰り返した『11月23日』。
いいかげんに、明日を迎えに行こうか。
沙綾を思い浮かべながら「青空」を口ずさむ。
これがタイムループを終わらせる鍵。
青空。
澄み渡るほどの青空だ。明日のライブも、きっと上手くいく。
「凡造?」
振り返るとそこに沙綾がいた。近づいてくる彼女に手を振って
「また明日ね」
と笑ってみせた。
目覚ましのアラームが鳴って、僕は目を覚ました。
日付を確認する。11月24日。タイムループは無事終わった。
それにしても、最後の『昨日』で何故沙綾があそこにいたんだろう。
繰り返した日々の中では、沙綾は違う場所にいたはずなのに……。
まあいいか。もうタイムループには飽きたし、次回ってこともないだろうし。
僕は背伸びをして、カーテンを開けた。
「うん、いい青空だ」
上手くいく、大丈夫。そう呟いた。
いよいよ今日が来た。
了
あとがき
SFタイムループものにしちゃいました。
凡造くんなら何度もループしてても平然としているだろう、という発想から生まれた二次創作作品。
実は彼は他にも不思議な体験をしていて…という裏設定が(以下略)
演奏シーンも全くない、本編とのつながりの薄い作品になってしまい申し訳ない…。せめて日付は本編と関係ある日にしてみた。実はライブの前日、凡造くんだけが繰り返しの日々を送っていた……のだろうか。その答えは誰も知らない。
書いてて楽しかったです。ありがとうございました!