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自作詩

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ナルが書いた自作の詩のようなものたちです。読んでいただけたら成仏できます。
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#海

まぼろしを紡いで

もう全部やめてしまおうか キーボードを叩く音が止まる 夏の風ばかりが過ぎる静寂 夜の闇に右手をしのばせる いつまでも変わらない世界に 理想とは程遠い自分に あきらめる癖ばかりついた それでも言葉を紡いだ ニライカナイの夢を見て 湯船に沈めた手首 思い出すのは十府ヶ浦 あの朝焼けのまぼろし 大八洲を駆けるのはこころ ただぼくのこころ 息を吐き出して、静寂を壊した 夏の夜は少しだけぼくに寄り添う あの朝焼けに消えてしまえば もうぼくはきみに会えないのか 認めよう、生きよう

タチアオイ

思い出していたのは あなたの長い髪と、はにかむような笑顔 じーじーじーじー 懐古の隙間にあぶらぜみ どうせなら波音がよかった あなたがいつも言っていた あの浜辺を探している ふらつく足取り あの日は千鳥足で あなたが見たいと言い出して、ふたり 海までの下り坂 ひぐらしとタチアオイ てのひらの熱 ぼくは今日、ひとりきり てのひらはつめたい じーじーじー もはや耳鳴りと化したいのちの音に 現実に戻される、もどりたくない さっきまでここにいたあなた 幻だったならそれでよかった

ナナカマド

心と過去に増える傷を ナナカマドが撫でる 傷を撫でて汚れたそれを見て ぼくはひどく悲しくなった ごめんなさい、と声にしても 風がどこかにさらっていく ありがとう、と口にしても 波がどこかに隠してしまう 赤に汚れた若葉も 世界が綻んでいく日々も 全部僕のせいだって知ってる (生まれてきたことは間違いだったでしょうか) (生きてきたことは間違いだったでしょうか) ざあ、ざあ。 ごお、ごお。 間違いだったとしてもいいよ 生きるしかないってわかってる このまま終われたら楽だとしても

ニライカナイの手首

人指し指がちくちくと痛むので さくら色の海の向こうのあなたを見つけたときは 選ばれたニライカナイ、あなたがえらんだ場所に ひどく嫉妬しているのです。 ぼくはぼんやりと (それにしては言葉はあふれ出て、これはぼんやりというよりはややはっきりと) 海色の付け根にキスをする。 に、ら、い、か、な、い。 (ニライカナイというのですって) に、ら、い、か、な、い。 (口にしたとて、口にしたとて) に、ら、い、か、な、い。 (わたしもうすぐそこへいくの) に、ら、い、か、な、い。 (ど