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読むサイエンスラバー!東京工業大学・益一哉学長が語る東工大最新情報

LeaLがお届けしているPodcast”サイエンスラバー”。2023年最初のエピソードでは、東京工業大学の益一哉学長が登場!工学についてや東工大の最新情報まで、たっぷりとお話を伺いました。今回はその一部を記事としてお届けします。
後編では、東京医科歯科大学との統合や入試への女子枠導入など、今ホットな話題の多い東工大の取り組みの狙いを聞きます。
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世界からの遅れを取り戻すための”女子枠導入”

瀬戸:東工大の最近のニュースで言うと、入学試験への女子枠の導入がありますよね。私は文系ですが、通っていた女子高の同級生には工学部や工業大学に進んでいる子が結構いました。ただ、正直男子学生ばかりだなという印象ですし実際もそうで、研究室に女子1人なんだーと話している子もいました。
そういった現状の中での女子枠導入には、どのような狙いがあったんでしょうか。

益一哉さん:
元々は”多様性”が頭にあったんです。多様性というと性別ももちろんですが、国際性も大切で、留学生の受け入れにも力を入れてきました。留学生の割合は今17%ほど、博士課程になると30%くらいなんです。学部でももっと割合を増やした方がいいかなという考えと、日本の大学なのでどうするかという考えがあって、これについては議論されています。
そして性別差でいうと、東工大では女性の数があまりにも少なくてアンバランスです。これを何とかするという必要性に駆られました。世界の動きを見ても、90年代から女性の活躍が急速に進んでいて、例えばアメリカの工学部系は男女比が半々に近くなっていて、それが当たり前になっています。僕が半導体の研究者として国際会議に行っても、女子学生も女性の研究者も普通に発表していて、アメリカの学会には女性役員がいるのを見ると、実体験として日本はちょっとおかしいな、完全に遅れているなと感じていました。女性がもっと一緒になって科学技術、工学、理学を発展させていくことの方が自然だという思いが根本にあったんです。
そして僕が学長になって特に感じたことは、世界の進歩や変化ってとても速いということです。そうすると大学としては、かなり思い切ったことをやらないと世界に追いつけない。そうしないと30年後、さらに日本が世界に3周遅れ、4周遅れになるから、賛否両論はあると思いましたがかなり思い切った策をとりました。

瀬戸:女子枠導入によって、どんな未来になればいいなと思いますか。

結局は東工大に集う人も含めて日本に住む人にとって、住みやすく幸せだと感じる国、あるいは社会になることがひとつの大きな描きたい将来です。そのときに男だけでもなく女だけでもなく、外国人も区別することなく、みんなが一緒になって幸せになれる国や社会です。
もうひとつ重要なのは、地球との共生・共存です。私たち人間だけが幸せならいいのではなくて、人間も含め、動物も植物も、そして地球と共生するということを念頭に置いて、地球そのものも幸せな社会を目指したいです。

小池:僕が一人のサイエンスラバーとして思うのが、性別によって、特に自然科学を突き詰めるという進路を決断する上で、実現の権利が平等でないというのはすごく嫌なんですよね。学生の段階で親の意見や社会の印象で制限されているのはやはり良くないし、僕はすごく残念です。それが良くなっていけばいいなと思います。
瀬戸:とにかく性別関係なく研究に集中できる環境が用意されてるというのが一番大事なことなんですかね。

もちろん東工大は男性が多かったので、今入ってくる女子学生や女性教員に向けての環境を少しずつですが準備しています。ただ、これからもっと増えてきた時に男性にとっても女性にとっても快適な環境にするために、まだまだ改善していかないといけないところがたくさんあります。
ただぜひお伝えしたいのは、女性だから東工大に入って活躍できないんだというのは違った見方かなと思います。同じ東工大生として活躍しているので、そういうことをもっともっと僕らは伝えないといけません。今、数が少ないからロールモデルが見えないという声もあるので、僕らは小学生、中学生、高校生あるいは保護者の皆さんに見せないといけないと思っています。


反省や危機感から生まれた大学統合

小池:東工大のビッグニュースといえばもう一つ、東京医科歯科大学との統合が合意に達しましたよね。こちらにはどんな狙いがあるんでしょうか。

これも30年間の日本の状況が関わっています。世界を見ると、GDPはちゃんと伸びてるのに、日本だけが伸びてない。では製造業を見たときに、実は世界も、例えばアメリカのGDPの中の製造業のGDPは伸びてないんです。伸びているのはIT産業やバイオ産業などのほかの産業で、それが成長してGDP全体を伸ばしています。日本の製造業も伸びていないことから、結局新しい産業を作ることができたかできなかったかの差だということなんです。
過去に遡ると、1881年に東京工業大学が東京職工学校として設立した時の理念は、工業工場で働く人を育てるのではなくて、人を育てて工業工場を作るというものなんです。これは人を育てて産業をつくりなさいということで、つまり東工大がこの30年間人を育てて産業を興してもらうことへの努力を怠っていたということを意味していると気付きました。設立の理念からも外れていて、日本の停滞をつくったのはもしかしたら産業界ではなく、僕ら自身じゃないのかと反省したというか、自分自身まずいと思ったんです。
僕ら国立大学は2022年から6年の第4期中期目標・中期計画を立てるのですが、その時に東工大で掲げたのが理工学、科学技術の再定義でした。僕ら大学は新しい産業をつくっていく基盤になることを教育し、研究していかなければならないと考えると、もっと人に関わるような分野に踏み切らないといけないという話になったんです。
これは東京医科歯科大学から聞いた話ですが、東京医科歯科大学も病院があって人を治療する中で、目の前の病気を治すことだけが医療なのかということに疑問を持っていたんです。もっと人そのもののことに関わるようなことも医科系、歯科系大学としてはやらないといけないのではないかと考えて、今の大学のあり方に危機感を持っていたそうなんです。
そういった双方の思いから、どのように今の大学を変えて社会へ新たに貢献していくか考えていく中で、方法論の一つとして一つの大学になって、人的交流や研究交流を深めて社会に貢献していこう、というのが統合に至った経緯です。

小池:僕はすごくワクワクします。

瀬戸:そうですね。本当に日本の未来が変わるかもしれない…期待したいです!

Podcastへのリンク

益さんがゲストのサイエンスラバーを公式サイトから聴きたい方はこちらから!

前編【東工大学長・益一哉さん登場!】東工大のトップが語る”工学”とは

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中編【東工大最新ニュースを深堀り!】東京医科歯科大との統合や女子枠導入の狙い

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後編【東工大学長はサイエンスラバー!】研究者・益一哉さんの原点に迫る

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