29℃の記憶
暑いような涼しいような、生温くて湿った舗道の香りが、会社帰り21時のOLの体に染みる帰り道。
一週間働いて、明日から束の間の休息。
オトナになって、"夏休み"という夏休み期間が無くなってから、なんだか唐突に夏が始まって、そしてまた唐突に、アツさが喉元を過ぎていくようになったな。
そんな風に、なにもかもが早くて、自分の中を通り過ぎる感情と向き合う暇もなく、また次の日がくる。
毎日勿体無いなと思いつつ、気持ちを置いておく時間が中々なかったけど、やっぱり、たまには引っかけて残しておく。
*
夏が終わりかけて、少し涼しくなった夜。
こんな時間に、こんな気持ちになったのはいつだったろう。明確に思い出せなくなりつつあることに、また寂しくなる。
たとえば、半袖のセーラー服から出ている、部活帰りの汗ばんだ肌に感じる風が、少しずつ冷たくなってきたとき、立ち止まって、はっとして、また友達を追いかける夏の日。
たとえば、親と大喧嘩して、行くあてもなく家を飛び出た後、歩いて人の家に押しかけた夏の夜。オレンジ色の常夜灯の下で、私の梅酒ロックの氷が、カランと音を立てて溶ける。ぬるい空気が何でだか痛かった。
痛かったことを、鮮明に覚えている。
歳を重ねて、初めてのことは段々と減っていく。
それでも上手くいかないことに毎日振り回されて、ヘトヘトになって帰ってきて、土日は少しでも回復することに精一杯。お昼まで寝て。
時間があれば友達と会ったり、結婚式の準備、資格試験の勉強、前へ前へ。進んでいかなければ。あっという間に進んでいってしまう。
楽しいことも切ないことも、全部瞼の裏に保存していければいいのにな。
もう少し毎日を大切にしていくために、また取り留めもないですが、書き始めていこうと思います。
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