偏見至上主義のせんせい@診察日記
「いろにぃさんの今の症状にはこの薬が1番効きがいいと思いますよ。私の偏見ですけどね」
「偏見!?!?」
今日の診察の話
今日は今年最後の診察日。
なんと体調は最悪。
詳しくはひとつ前のnoteをご覧下さい。
ほんっと酷い。
頭は重いし胃は空っぽで力が出ない。
いつも通り「いろにぃさーん」なんて呼ばれて、さっさと帰ろう……とよぼよぼしながら診察室へ。先生に資料(診察メモや日記)を手渡す。前回新しく処方された薬の副作用が怖くて飲めなかった私は、先生によぼよぼしながら相談をした。
「先生……あの薬の件なんですが……」
「ああ、あの薬ねぇ」
「副作用が怖くて飲めなくて……」
副作用なんかどの薬にもある。
しかしその薬は特に【離脱症状】が多いことで有名だった。不安感を煽る記事に翻弄されていたのだ。そしてその記事もあながち間違っている訳ではなく、実際に離脱症状は多いらしい。先生は「何が不安なの?」とサラッと聞いてくださった。
「……これから就活とかあるし。クローズで就職しても飲み続けて辞められない、なんてことになったら怖くて」
「飲みながら働いてもいいんじゃない?」
「え!? ……で、でも薬飲まないと働けないのに嘘ついて就職していいのか……」
おどおどそわそわする私。
私は1年前に比べてだいぶ回復してきた(つもり)である。だから、辞めにくい薬は不安なのだ。治ってきたと思っていたのに、戻れなくなる気がするから。先生は「薬を飲みながらでも元気になれた方がいい」って考えているみたいだった。
でも、私の生活に「薬」があり続けるかぎり私は「病気」で「障害者」だ。
それに私は嘘が苦手だった。
普通の企業に就職して、もし失敗した時。上手くいかなかった時、元気が出なくて体調が悪くなった時。やめられない薬や病気を言い訳にしてしまいそうなのだ。それが怖い。
傍から見れば、今の状況を良くする薬があるのにわがままで飲もうとしない困った患者、だろう。私は困り果てていた。精神もボロボロ、髪もボサボサ。疲れた。寝たい。
私はそれでも何とか頭を回した。
「ええと、もし他の薬……離脱症状の少ない薬なら飲めると思うんですが……」
「いやぁ〜……ほかの薬を飲むなら私はこの薬が1番良いと思うんですよね。偏見ですけど」
「偏見ですけど!?!?」
思わず元気が出ないことを忘れて大声を出してしまった。偏見て。偏見でなんでそんな堂々と……偏見っていった?今?
先生はサラッと仰った。
「いろにぃさんの症状に1番よく効くのがこの薬なんですよ。もうひとつ別の薬もありますが、こっちの方がいいです。科学的に証明されてないので、偏見としか言えないんですけど」
「偏見……偏見て……??」
「でもね、科学的に証明されたものなんて4、5年後にはひっくり返されてるんですよ。科学的に証明、なんて聞くともう変わらないように思うでしょ?でもそんな事ない」
「むしろ私が『科学的にはこうって言われてるけど、違うだろうな』って思ってたことが、数年後にその通りになることが多いんですよね」
「すごくないですか?」
思わず真面目に目を見張った私。
この先生すごい人なのか?
そんな私の思考を読んだのか、先生はまたサラッと仰った。
「まあ、予想が当たった時のことしか覚えてないだけなんですけどね。当たらなかった時のことは忘れるので覚えてないです」
「どうして!?!?!?!?」
全く私と真逆である。
私は上手くいかなかったこと、予想が当たらなかったことばかり数えて「私はまた失敗した」「私はいつもそうだ」「誰もお前を愛さない……」と落ち込む。
しかし目の前のこの先生は、ケロっとして自分の上手くいったことだけを覚えているのだ。なにをそれ。めっちゃいいな。
羨ましそうな私を見た先生が自慢げに(??)仰った。
「偏見でいいんですよ。自分の培ってきた経験からなる偏見……直感みたいなものでしょうか。そういうのは当たりますからね」
「それに、上手くいったことの方が覚えておいた方がいいです。次上手くいかせる時の参考になりますし。反省することももちろん大事ですけどね、上手くいった時の感覚の方がよっぽど大事だったりしますよ」
私はちょっと考えて答えた。
「でも先生。私はいつも失敗ばかりするんですよ。成功したことは忘れて、失敗したことばかり思い出しちゃうんです。それに、自分ひとりで自分のことを選択するのが苦手なんです。正解のない個人的な価値観で選ぶものが怖いんです」
「そうですね。恐らくそういうところが病気とも関連しているので、少しづつ自分のことは自分で決断できるようになると病気も良くなると思いますよ」
いやそんな簡単に言うなよ…
そうは思ったが珍しく沢山目を見て話してくれた先生と、年末最後にそんなやり取りをした。
来年は兎年。
兎らしく、しゃがみこんだ体勢から飛び出し、ぴょんと跳躍したい。
そう思えた、年末の夜だった。
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