見出し画像

#14 60歳以上対象の「いきがい講座」で、野菜作りを再開


■夏野菜の植え付け、支柱立て、草取り・・・畑実習は大忙し


今年度も“土のある暮らし”がスタートしました。世田谷区内在住の60歳以上を対象にした「いきがい講座」の〈野菜コース〉に参加し、来年2月まで全28回の講座を通して野菜の植え付けから収穫までを学びます。講座は水曜日の10~12時に開かれ、場所は自宅から徒歩25分の所にある「土と農の交流園」です。施設内に「研修室」があるため、毎回座学と畑での実習の組み合わせで進行します。教えて下さるのは、東京農業大学グリーンアカデミーの講師で、その日に植える野菜の栽培のポイントなどを丁寧に解説してくださいます。


ピーマンやナスなどの夏野菜を植え付け


参加者36名は3班に分けられ、座学も実習も班単位で進行します。各班には班長と副班長もいて、ちょっとした学校のような雰囲気を感じます。男性と女性はほぼ半分ずつで、年代は恐らく60代後半から70代が中心かと思われます。同じ班のメンバーには野菜作りのベテランさんもいて、畑に出ると「風で飛んだマルチカバーをまずやり直しましょう」「植えた苗にはたっぷり水をやって」「支柱は指す向きを間違えないでね」と次々と声が聞こえてきます。4~5月は夏野菜の植え付けが続くので、「今日もちょっと残業だね」と終了時間の12時を過ぎることも少なくありません。



ピーマンの仮支柱の立て方を教える講師


講座のある日以外にも「自主管理日」という活動があり、参加可能なメンバーだけで水やりや除草のために畑に行きます。5月中旬に植え付け予定だった苗が予想以上に早く生育したため、急遽ゴールデンウィーク中に「自主管理日」を設けて、ナス、ピーマン、トマトの植え付けを行いました。苗が風で倒れないよう、支柱を立てて紐と苗を繋いで固定します。この支柱の立て方は野菜の種類によって異なり、トマトやナスは「2本仕立て」、キュウリは「合掌作り」をよく用いるそうです。


■野菜作りの先輩たちに学ぶ、畑のイロハ


今回参加した「いきがい講座」は、「シルバー工芸教室」「土と農の交流園講座」「代田陶芸教室」の世田谷区内3カ所で開催されています。「シルバー工芸教室」は紙漉き・木彫・七宝焼の3コース、「土と農の交流園講座」は花・樹木・野菜・果樹の4コースです。申し込む際に、この4コースでちょっと迷いました。当初はブルーベリーやぶどうが食べられのではと果樹に心が傾いていましたが、花も樹木も面白そう、でもやはり野菜かな・・・と。班のメンバーには2年続けて野菜コースを受講している人や、来年は果樹コースを考えている人もいるようです。畑のすぐ隣には花コースの見事なバラが咲き誇っていて、草取りをしながら「来年は花コースもいいな~」とつぶやいてしまいます。


畑の隣にある「花コース」の花壇


昨年度は世田谷区内の農家さんに学ぶ「野菜づくり講習会」に1年間参加し、植え付けから収穫までを体験しました。これは都市農業への関心を持ってもらうために区の「都市農業課」が運営するもので、生産者から直接学べることが大きな特徴です。18歳以上が対象なので20代から70代まで幅広い年代が参加して、畑での時間を満喫しました。農家さんからの「世田谷公園の農業祭に出るから来てね」との声がけや、メンバーから「ぶどうの収穫体験があるよ」「区民農園、抽選で当たった」「〇〇地区の農家さんの手伝いに行ってみた」など様々な情報が飛び交い、区内の農業事情にも詳しくなりました。

昨年度はメンバーの中では年長組でしたが、今年は文字通り最年少の新参者です。ひと回り以上年上と思われるメンバーとの畑作業は、先輩が手取り足取り教えてくれた学生時代のサークルの時間を思い出します。「鍬はあの倉庫の中」「支柱はあちらの倉庫に立てかけてあるから」「ジョウロは下駄箱の上ね」と、こちらが「?」と思う間もなく次々と声をかけてくれるので、立ち止まる瞬間がほとんどありません。作業の途中では「今日は暑いから水分早めにしっかり摂ってね」と言われ、思わず水筒を取りに走りました。家から歩いて通っていることを伝えると「夏は暑いから自転車がいいよ」とのアドバイスもあり、おかげ様で戸惑うことなく活動できています。


■ミッションクリアのための「学び」と「実践」



「土と農の交流園講座」で開催する花・樹木・野菜・果樹の4コースは、世田谷区が東京農業大学グリーンアカデミーに業務を委託して運営しています。この東京農業大学グリーンアカデミーは、シニア世代を対象に花と野菜と健康を学ぶ年間講座を開催しており、園芸と造園の基礎が学べる上に実習を通して家庭園芸と造園に役立つ技能が習得できる点が大きな魅力です。卒業後は、公園や庭園などの管理やガイドなどで活躍する受講生も多いとか。講座は毎週平日3日間、朝10時から午後3時まで講義と実習があり、なかなかハードな内容です。

その東京農業大学グリーンアカデミーが運営主体であることは、今回の講座を受けようと思った動機の1つでした。農家さんと共に1年間野菜作りを体験したとはいえ、土づくりや堆肥、支柱の立て方などわからないことが山ほどあり、改めて学び直したいと思ったからです。その期待通り、毎回の座学の時間は詳細なレジメが配られ、講師はその日に終えるべきゴールを明確に示してくれます。「今日は、落花生の播種(はしゅ)、サツマイモの植え付け、キュウリの定植、トマトのわき芽とり、あとは連休に植えた野菜に追肥をします」とホワイトボードを使って、30~40分ほど具体的なやり方を解説。


トマトの支柱は「2本立て」


時に「トマトシチューじゃなかった、トマトの支柱は2本立てね」や「ベニアズマとベニハルカなら、ベニハルカの方がはるかに美味しい」と、真面目な顔で昭和の香りのする冗談を織り交ぜてきます。畑に出ると各班の進捗をみながら、滞りなく作業が進むよう「畝の幅は70センチ、きっちり測ってくださいよ」「支柱は両側から協力しないと美しくできませんよ」とアドバイス。各班が今日のゴールに到達するよう、自分は何をすればいいのか、手を動かしながらも頭で考える、そんな時間が流れます。“土のある暮らし”シニア版は、穏やかにスタートしました。

文・藤本真穂 
株式会社ジャパンライフデザインシステムズで、生活者の分析を通して、求められる商品やサービスを考え、生み出す仕事に従事。女性たちの新たなライフスタイルを探った『直感する未来 都市で働く女性1000名の報告』(ライフデザインブックス刊/2014年3月)の編纂に関わる。2022年10月に60歳を迎えたのを機に、自分自身の働き方や生き方を振り返り、これからの10年をどうデザインするかが当面の課題。昨年3月、60歳まであと半年を残してプチ早期退職、37年間の会社員生活にひと区切りした。