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[論文自己紹介] キングペンギンの泳ぐ速さは暗くなるにつれて遅くなる

(バイオロギング研究会会報 2017年2月号より)

論文情報:
Shiomi K, Sato K, Handrich Y, Bost CA (2016)
Diel shift of king penguin swim speeds in relation to light intensity changes. Marine Ecology Progress Series, 561: 233–243.
doi: 10.3354/meps11930

対象種:
キングペンギン King penguin
Aptenodytes patagonicus

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調査地:

亜南極クロゼ諸島ポゼッション島(46° 25’ S, 51° 45’ E; フランス基地)

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使ったデータ:
速度、深度、加速度、潜水経路、食道温


2011年1月〜3月におこなったキングペンギン調査の成果がこのたびパブリッシュされましたので、報告します。この研究は、東京大学大気海洋研究所の佐藤克文先生、フランスのYves Handrich氏・Charly Bost氏との共同研究です。

亜南極で繁殖するキングペンギンは、 Polar Front Zoneと呼ばれるエサ獲りに適した海域を目指して、繁殖地から数百kmもの距離を移動することが知られています。ただしPolar Front Zone内だけでなく、そこへ向かう道中にも、採餌もしくは移動のための潜水を繰り返します。

どのような動物の視覚システムについても、照度が低くなるにつれて視覚情報の時間解像度が低下すると考えられており(temporal summation effect)、一部の昆虫ではそれを補うために移動速度を下げるという現象が報告されてきました。キングペンギンの育雛期の採餌トリップは1週間以上にも及び、潜る深さや時刻の違いによって様々な明るさを経験することになります。潜水動物は単位距離あたりの移動エネルギーを最小にする巡航速度で泳いでいることが多くの種で証明されてきましたが、彼らの巡航速度にも照度に応じた変化が見られるのか、というのがこの論文の問いです。

キングペンギンが採餌トリップ中に経験する水中照度を日付・時刻・深度から推定すると、夜間の潜水中は昼間に300 m以上の深さまで潜った時と比べても10分の1以下の明るさであることがわかりました。そして、潜水中の平均速度は、日没頃に照度が低くなるにつれて遅くなっていき、逆に日出頃には徐々に速くなっていました。さらに、移動速度に対応して遊泳中のはばたき頻度も増減していることが加速度データから明らかになりました。

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今回の研究で示せたのは照度と速度の相関関係のみではありますが、潜水動物においても、照度に応じて移動速度を調節することによって、視覚的に得られる情報量の低下を補っている可能性が初めて示唆されました。異なる分類群の動物で、感覚に関わる共通の行動が進化したのかもしれません。


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