[論文メモ] 海鳥の営巣環境と脳体積

2018.6.29 おもしろい論文レポート[12]

Hippocampal Volume Is Related to Complexity of Nesting Habitat in Leach’s Storm-Petrel,a Nocturnal Procellariiform Seabird
Marsha L. Abbotta et al.
Brain Behav Evol (1999) 53:271–276

【要約】
夜間のみ繁殖地に帰ってくるコシジロウミツバメの海馬*1の相対体積(海馬と終脳の体積比)を (1) 森で営巣する個体群と開けた草地で営巣する個体群で種内比較し*2、さらに (2) 貯食*3性および非貯食性の鳴禽類、(3) 昼行性のフルマカモメ、と種間比較した。

コシジロウミツバメの海馬の相対体積は、(1) 森で営巣する個体群の方が大きく、(2) 鳴禽類との比較では貯食性の種よりは小さく非貯食性の種よりは大きく、(3) 昼行性のフルマカモメより大きい、という結果となった。以上の結果から、コシジロウミツバメの海馬の相対体積は、夜間に帰巣するために必要な空間認知能力と相関している可能性が示唆された。

*1  記憶や空間認知に関わる脳領域。
*2  この論文では、森の中を移動して帰巣する場合の方が、より高い空間認知能力を必要とするものとみなしている(草地よりも暗く、障害物が多い)。
*3  餌をどこかに隠して後で掘り返して食べる行動を指す。貯食する種の方が高い空間認知能力を持つという前提で比較対象に選んだのだと思われる。

【客観的な意義】
この論文では、「客観的な意義」はあまりアピールされていなかった。脳領域の相対体積が帰巣に必要とされる空間認知能力によって変化する可能性を示唆したところだろうか。貯食行動と海馬体積の関係については既に報告があったようなので、「帰巣」に注目した点が新しいのだと思う。

【おもしろいと思ったポイント】
・種内でも個体群間で脳領域の体積比が異なること。
・行動に必要とされる知覚能力(?)を解剖学的な特徴から明らかにしようとしているところ。私の研究でもこういうアプローチを取り入れたい。

【疑問】
・海馬の体積はどの程度後天的に(環境や経験で)決まるのだろうか。
・ウトウの営巣地にも、イタドリが茂っている所や完全な裸地などがあり、場所によって帰巣の難しさが違うのではないかと感じた。イタドリが茂っている営巣地では嗅覚がより重要なのではないかと想像していたけれど、コシジロウミツバメでは嗅球の相対体積には違いがなかったらしい。ウトウの脳についてもコシジロウミツバメと同じような傾向があるだろうか。
・ある脳領域を相対的に大きくするコストは、体の大きさや飛行能力によって違ってくるような気がする。環境の違いが同程度だとしても種内変異の大きさは違う可能性がある?
・貯食性の鳴禽類よりは海馬の相対体積が小さかったのは、複数の場所を覚えなければいけない貯食の方がより高い空間認知能力を必要とするためだろうか?


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