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[論文自己紹介] 大型台風に巻き込まれたけど乗り切ったオオミズナギドリ

Shiomi, K.
Swirling flight of a seabird caught in a huge typhoon high over mainland Japan
Ecology, e4161 (2023)
https://doi.org/10.1002/ecy.4161


私はGoogleアラートのキーワードに「オオミズナギドリ」を登録しています。普段はほとんど通知がこないのですが、オオミズナギドリアラートが少し増える時期があります。大きな台風が過ぎた後です。

オオミズナギドリの少なくとも成鳥はもっぱら海の上を飛びますが(※)、台風後は内陸に落鳥したオオミズナギドリが保護され、ニュースとなるのです。

※ 日本海側の島から巣立った幼鳥は本州を横切って南へ渡ることが知られています(Yoda et al. 2017 Current Biology, 2021 Ecology)。おそらく横断に失敗して落鳥した幼鳥が原因で、この時期もアラートメールが少し増えます。

一方で、オオミズナギドリが台風で内陸へ飛ばされるのを能動的に回避していることを示唆する行動も報告されています。Lempidakisら(2022, PNAS)は、台風に伴う強風に遭遇したオオミズナギドリが台風の目の方へ向かう傾向があることを明らかにしました。相対的に風の弱いエリアに移動することによって内陸への落鳥を避けているのだと考えられます。同様の行動は、他の種でも報告されています(Nourani et al. 2023, Curr. Biol.)。

つまりオオミズナギドリは、台風で内陸に飛ばされてしまうリスクに晒されているが、それを回避する行動パターンも備えているということです。


■ 

前置きが長くなりましたが、今回の論文では、台風を「うまく」回避することはできなかったが、内陸への落鳥をギリギリのところで回避したと思われるオオミズナギドリ1羽の移動経路を新たに報告しました。

2019年8月、伊豆諸島御蔵島で繁殖するオオミズナギドリ14個体にGPSロガーを装着しました。そしてその翌月の9月8日、大型台風(FAXAI)が御蔵島の西側を通過して本州に上陸しました。

この時、GPS個体のうちの1羽が台風とともに本州上空を移動している様子が記録されていました。通常の飛行時にはありえない速度と高度(※)でぐるぐると回り、最終的には台風とともに海へと抜けて生き延びたようです。

(※) 通常は時速30〜40km程度で水面近くを飛んでいることが多いのに対して、「台風巻き込まれ期」は最大時速170km・最大高度4000mでした

ぐるぐる動画↓


上述の論文(Lempidakis et al. 2022, PNAS)では、落鳥を回避するためには鳥自身と本州と台風の相対的な位置関係を把握するナビゲーション能力が必要であることが示唆されています。

今回台風に巻き込まれていたオオミズナギドリのトリップ経路を見てみると、他の個体に比べて岸に近いルートを飛んでいることが多い印象を受けました。海岸線は長距離移動時のガイドとして機能し得ることが過去の研究で示されています(Shiomi et al. 2019, Behaviour)。もしかするとこの個体は空間認知能力があまり高くなく、そのことが台風に巻き込まれてしまった一因だったのかもしれません。


1羽のみの棚ぼた的データではありますが、台風回避の失敗(落鳥)と成功の境界線ぎりぎりの行動を記録した貴重な例だと考えています。

気候変動に伴って勢力の強い台風が増加している/今後増加していくことがいくつかの研究で示されています。そのようなイレギュラーな気象イベントが野生動物にどのような影響をもたらしうるのかを理解するためにも、今回報告したような行動データの蓄積が重要なのではないかと思います。


■ 引用文献:

Lempidakis, E., E. L. C. Shepard, A. N. Ross, S. Matsumoto, S. Koyama, I. Takeuchi, and K. Yoda
Pelagic seabirds reduce risk by flying into the eye of the storm
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 119: e2212925119 (2022)

Nourani, E., K. Safi, S. de Grissac, D. J. Anderson, N. C. Cole, A. Fell, D. Grémillet, E. Lempidakis, M. Lerma, J. L. McKee, L. Pichegru, P. Provost, N. C. Rattenborg, P. G. Ryan, C. D. Santos, S. Schoombie, V. Tatayah, H. Weimerskirch, M. Wikelski, and E. L. C. Shepard
Seabird morphology determines operational wind speeds, tolerable maxima, and responses to extremes
Current Biology 33: 1179–1184.e3 (2023)

Shiomi, K., K. Sato, N. Katsumata, and K. Yoda
Temporal and spatial determinants of route selection in homing seabirds
Behaviour 156: 1165–1183 (2019)

Yoda, K., Yamamoto, T., Suzuki, H., Matsumoto, S., Muller, M., Yamamoto, M.
Compass orientation drives naïve pelagic seabirds to cross mountain ranges
Current Biology 27: R1152-1153 (2017)

Yoda, K., Okumura, M., Suzuki, H., Matsumoto, S., Koyama, S., Yamamoto, M.
Annual variations in the migration routes and survival of pelagic seabirds over mountain ranges
Ecology 102: e03297 (2021)

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