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【学会参加報告】手指運動機能の評価に基づく手根管症候群スクリーニング(FIT2022)

はじめに

(文責:杉浦裕太研究室修士2年 松井良太)
本年9月13日から15日にかけ,「第21回情報科学技術フォーラム(FIT2022)」が,慶大矢上キャンパスにてハイフレックス方式により開催されました.私は14日の一般セッション「医用画像」において,「手指運動機能の評価に基づく手根管症候群スクリーニング」をテーマとした研究発表を行いました.本稿では参加報告として,本研究の概要や当日の状況などについてまとめています.

研究の概要

はじめに背景情報として,手根管症候群(CTS)を簡単に紹介します.CTSは,手の酷使や炎症など,何らかの原因によって手のひらの神経が圧迫された結果,神経の痛みや手指の運動機能低下などの症状が引き起こされる疾患です.

CTSの診断にあたっては,電気的刺激を神経に与え,その伝わりやすさを測定する神経伝導速度検査などがしばしば用いられます.CTSの病態に直接アプローチできる一方,患者が痛みを感じるなど,負担の大きい手法であるといえます.

このような検査に代わる簡易な手法として,CTS患者にみられる身体所見の有無を判定するスクリーニング手法があります.具体的には,手首を軽く叩いた際の痛み(Tinel徴候)や,手首を曲げた際の痺れ(Phalenテスト)などが挙げられます.その手軽さが利点の一つですが,他方で身体所見に着目しているため,類似の所見を引き起こす他の疾患と混同しかねないと私たちは考えてます.

そこで本研究では,既存のスクリーニング手法に情報技術を組み合わせることで,複数の疾患を同時に判定,識別する手法の確立を目指しました.私たちが着目した従来手法は,頚髄症という神経疾患をスクリーニングする10秒テストです.このテストは,手指を開閉するグーパーの動作を素早く繰り返し,10秒間で何往復できるかによって頚髄症の疑いを判定するものです.このような手指の運動障害はCTSでもみられるため,10秒テストをCTSスクリーニングにも活用しうると私たちは考えました.

図1 (a) スマートフォンによる手指の撮影 (b) 画像処理で推定する手指の位置

提案手法ではまず,10秒テストの様子を撮影します.机の上に置いたスマートフォンの直上に片手を構え,グーパーの動作を繰り返し,その動作を映像として保存します(図1a).

この映像から動作の特徴を取り出し,機械学習を用いてCTSの疑いをスクリーニングします.画像処理(MediaPipe Hands)を用い,手指の指先や関節などの位置を,動作を特徴づけるデータとして取り出します(図1b).サポートベクタマシンという機械学習の手法を用い,CTS患者と健常者どちらのデータに似ているかを調べることで,CTSスクリーニングを実現します.

提案手法の正確性を評価するため,東京医科歯科大学病院において撮影した実際の患者らの映像を用い,判定結果の正誤を調査しました.その結果,CTS患者の79.2%,健常者の67.7%が正しく判定されました.

今回の報告では,CTS患者と健常者の2種類を分類しましたが,今後は複数の疾患を分類するシステムについて評価を進めます.最終的には提案手法をスマートフォン用のアプリケーションとして組み込むことで,患者自身によるセルフスクリーニングの実現を目指しています.

当日のフィードバック

質疑応答においては,主に提案手法の詳細な流れに関する質問を頂戴しました.具体的には,グーパーの動きに生じる個人差や,その素早さに関する数値的な目標などについてです.さらに今後のさらなる解析に向けたアイデアもいただくなど,さらなる研究の深化に向けた有意義な議論ができたと考えています.

感想

FIT2022は情報技術を幅広く対象としており,私たちの研究分野であるインタラクションや画像処理などに限らず,計算機やネットワークなど,幅広い研究分野の一端に触れられました.情報技術に関する研究を俯瞰して知れたことは,FITに参加したからこそであると感じました.

今回はハイフレックス方式での開催であったが,オンラインによる発表や聴講の方々を数多くお見受けしました.このような方式の浸透により,交通費や時間等の制約を気にすることなく,研究発表を気軽に聴講できる環境が確立されたことは,多様な研究議論を進める観点において大きな価値があると考えています.

FIT2022の開催においては,対面での開催に加え,感染症予防の対策など,種々の変化に対応する手間や負担も少なくなかったであろうと推察します.その中でも開催に尽力いただいた,FIT2022委員会や座長の先生方をはじめとした皆様に対し,この場をお借りして感謝申し上げます.


発表文献情報

松井良太,小山恭史,藤田浩二,杉浦裕太,手指運動機能の評価に基づく手根管症候群スクリーニング,第21回情報科学技術フォーラム(FIT2022)
,慶應義塾大学矢上キャンパス,横浜.

発表動画

発表スライド


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