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理工学生が医療現場でシャドーイングを体験

こんにちは,杉浦裕太研究室の博士課程の渡辺です.私は手根管症候群と呼ばれる手外科疾患をスクリーニングするモバイルシステムを開発しています.私が中心に取り組んでいる研究はこちらをご覧ください.

タブレット端末を用いた手根管症候群患者スクリーニング

書字動作による手根管症候群スクリーニングシステム

今日は私が修士課程のときに共同研究先の東京医科歯科大学 藤田浩二講師のもとでシャドーイングをさせていただいた経験を紹介します.シャドーイングとは医師の後ろを影のようについて回り,医師の仕事内容を観察することを言います.

外来診療のシャドーイング

最初に思いつく医師の仕事といえば外来診療です.私は藤田先生と一緒に診療室に入り,先生が患者さんを診療する姿を見学しました.藤田先生は整形外科,特に手外科を専門とするので手外科疾患を抱える患者さんをたくさん診ていました.患者さんの中には手根管症候群を患った方もいて,患者さんに親指と人差し指でOKサイン(Perfect O Signと言う)を作らせてみると,きれいなOKサインが作れませんでした.健常であればきれいなOKサインを作れますが手根管症候群を患うとそれが難しいのです.このようにして私は手根管症候群の実際を観察しました.私は外来診療を見学する中で,患者さんがモバイル端末上でどのような動作(操作)をすれば手根管症候群の特徴がよく表れるのだろうか...,患者さんの手首の外転/内転,伸展/屈曲の角度をスマートウォッチを使用して定量評価できないだろうか...などと考えていました.

手術現場のシャドーイング

他に医師の仕事と言えば手術が挙げられます.私は数件の手術に立ち会いましたが,その中で私の研究に関連する手根管開放術を紹介します.手根管開放術は,手首の靭帯を切開して手根管による正中神経の圧迫を取り除く手術です.手術を受けるとき患者さんは手首に麻酔をしますが,正中神経には麻酔を効かせません.そのためメスや内視鏡が正中神経に触れると患者さんはすぐにそれに気づきます.この患者さんの反応により正中神経が通っている場所を確認しながら手術を進められますし,誤って正中神経を傷つけてしまうことも避けられます.もし万が一,正中神経を傷つけてしまうと大変なことになってしまいます.

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シャドーイングを通して得られた経験や知見

シャドーイングでは他にリハビリテーション科の訪問,学生の授業と研究指導などにも立ち会いました.私は藤田先生から大学病院の先生は上記の仕事をこなしつつ,同時に自分の研究も進めないといけないので早朝から夜まで大学にいると伺い,とてつもないハードワークで体力勝負なのだと感じました.

文頭の自己紹介と重複しますが,私はMobile Healthの分野に立っており,とくに整形外科疾患や人間の身体機能を定量評価をするアプリの開発に取り組んでいます.この研究に取り組み始めたとき,私は”高精度"なアプリを第一に考えていましたが,シャドーイングを通してアプリの"使いやすさ"も重要であると強く気付かされました.ここでの使いやすさとは,アプリは簡単な説明だけで使い始められて,複雑で込み入った身体動作や操作を必要としないことを言います.手根管症候群の特性上,患者さんは高齢者が多くモバイル端末の操作に慣れていない人もいますし,モバイルアプリの実験は藤田先生が外来診療時に行うのでアプリの操作説明に時間と手間をとらせてはいけません.”使いやすさ”を犠牲にするということは,安定したデータ取得が困難になり,結果的に"精度”にも影響を与える可能性があることを理解しました.

最後に

最後に私の目指すところは,疾患を早期に発見して患者の負担を軽くするだけでなく,医師の負担も減らすことだと考えています.手根管症候群で考えると,手根管症候群を軽症の段階で発見できれば手根管開放術の必要性は低く保存療法で対処できる可能性が大きいので患者の身体的,精神的負担は軽くなるはずです.また,それと同時に医師の手術をする負担も減らせます.私は精度の高い手根管症候群のスクリーニング手法を開発して,患者と医師の両方を手助けしたいと考えています.


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