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いま世界で提起されている「気候訴訟」とは?

小出 薫(弁護士)

「気候訴訟」(Climate Litigation)とは、気候変動の深刻化に歯止めをかけ、持続可能な未来を目指す訴訟です。
誰に対し、どのような訴えをするのかによって、いくつかの類型があります。

この記事は、こんな方におススメです▼
 ①深刻化する気候変動に関して社会的にアクションしたい人
 ②企業において、サステナビリティ分野を担当している人
 ③金融機関やVCなどに所属し、環境投資について検討したい人


1.気候変動とは

気候変動(Climate Change)とは、地球の気候パターンが長期間にわたって変化する現象です。これは、地球上の大気、海洋、陸地、氷河などの要素が相互に影響しあって引き起こされます。
気候変動は、地球の自然な気候変動や太陽活動の影響だけでなく、人間の活動による影響も大きな要因です。

気候変動により以下の深刻な影響があります。
極端な天候現象:洪水、干ばつ、ハリケーンなどの極端な天候現象が増加し、被害をもたらす可能性が高まります。
海面上昇:氷河や氷床の融解により、海面が上昇し、沿岸地域や低地の浸水被害が増加します。
生態系の変化:気候変動は生物多様性にも影響を与え、生態系のバランスが崩れる可能性があります。

2.気候訴訟が目指すもの

気候訴訟は、気候変動の深刻化に歯止めをかけ、対策を促進することを目指しています。具体的に求めることは、訴訟の相手によって変わります。
 政府:気候変動の原因となる温室効果ガス(Greenhouse Effect Gasの頭文字を取って、GHG)の排出を規制・削減することや、気候変動の緩和策の実施・拡大を求めます。
 企業:温室効果ガスを大量に排出する化石燃料の使用を止めることや、それ以外の対策をとることを求めます。
 金融機関:気候変動を深刻化させている企業への投資や融資を行わないよう求めます。

世界では、少なくとも2,341件の気候訴訟が起こされています(2023年5月時点)。日本でも、石炭火力発電所の廃止を求める訴訟などが続いています。

3.気候訴訟の具体例

① アメリカ・モンタナ州の若者たちが、地球温暖化による環境破壊が自らの将来に直結するとして、政府や企業を相手に訴訟を起こし、第一審の裁判では勝訴しました(控訴中)。
この若者たちは、合衆国憲法に基づく「生存権」や「健康権」を侵害されていると主張し、気候変動の原因となる排出量の削減を求めています。

② オランダのアジェンダ財団が起こした気候訴訟では、政府を相手に気候変動対策の不十分さを訴えました。
その結果、オランダ最高裁判所はオランダ政府に対し、2030年までに温室効果ガスの排出量を2019年比で実質46%削減する対策をとるよう命じました。

むすびに……反対するだけでない、訴訟の意義

気候訴訟は、企業活動に単に反対し、阻止するだけではない意義があると、筆者は考えています。

① 世代間の公平さを考えるきっかけになる
気候変動が進み、産業革命のころと比べて気温が1.5℃を超えて上がると、洪水や干ばつといった極端な気象現象に遭う確率が極端に高くなるといわれています。GHGを排出したのは私たちの世代なのに、その被害に遭うのは将来世代です。ここに、世代間の不公平が生じています。
また、気温上昇を1.5℃以内に抑えようとすると、私たちが排出できるCO2の量(いわゆる「カーボン・バジェット」)は限られます。この少ないカーボン・バジェットの制約も、将来世代が大きく受けることになり、この意味でも世代間の不公平が生じています。
気候訴訟は、このような世代間の不公平を考えるきっかけとしても機能します。

② 気候変動の緩和策を進めるきっかけになる
気候訴訟は、裁判所がCO2などのGHG排出量の削減を義務付けることになり、日本中、世界中の人々に気候変動対策のための積極的なアクションを促す効果があります。

このように、気候訴訟は、私たち自身や子や孫の世代が暮らす環境を守るための力強い手段になっていくでしょう。


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