その1|higipomの「トリセツ」
「言葉にする」って難しい。ぼくは大学の恩師に「どんなに言葉を尽くし話しても3割も伝わらない。もっと話さなきゃ」と言われた。それ以来、自分なりに人に伝えることを工夫してみている。あれから20年たち今は「8割ぐらい何を言っているかわからない」と言われる。言葉にするって難しい
リベルテのメンバーのhigipomは、そんなぼくへ果敢に色んな質問をしてくれる。アトリエで目が合うと彼は、イラストや絵の裏に書いている「説明文」の説明をしに来る。きっかけは、小さな頃の思い出を彼から聴いたことだった気がする。昨年は二人で“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのコンサートにも行った。思いついたというコントや撮りたい映像の内容などの文章も彼はよく書く。それも読ませてもらう。難解な言い回しや意味がわからない箇所もある。読んでいるとコミュニケーションに苦手意識がある「ぼく自身」を許せるような、そんな感覚が湧いてくることに気づく。higipomは創作の中で人に伝えるということを繰り返し工夫し続けている。そのことが自分の中に風を通してくれるような感覚を生む。
人に伝わらないという苦しさは生活の時間の中では一瞬で、忘れてしまうようなことでもある。けれど、それが記憶に残り蓄積していく経験は心に陰をつくる。同時に、その陰が「言葉にならないこと」を世界から守ってくれる。その陰に守られ種が芽吹くように表出したものが表現になるんじゃないか、と僕は思うことがある。彼は今、これまで工夫してきた言葉を使い、どう生きてきたか「取り扱い説明書」を書いている。言葉にすれば難しいこの世界に、彼が書く、生き延びるための工夫が書かれた「説明書」だ。その工夫が、その表現があるということだけで、この世界のどこかにいる誰かを救う可能性をhigipomは生み出している。
タイトルイラスト・SSG 文・NPO法人リベルテ 武捨和貴
上田映劇ジャーナル(vol.35)2020年7月号より
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