選ぶこと。 書くこと。 生きること。
あの日を思い出しては、悔しくなる。
いつかを想像しては、怖くなる。
あっちの道は危険なんじゃないか。誰もいない真っ暗闇なんじゃないか。
やはりこっちの方が安全だろう。だって、みんなそっちがいいと言う。
もしあの別れがなかったら、この出会いはなかったのだろうか。
もしこの出会いがなかったら、別の出会いがあったのだろうか。
人間は、"想像" という厄介な能力を授かった生き物だ。
自分の過去や未来について、回想し、空想せずにはいられない。
その時、自分の手からこぼれ落ちた未来を描いてみては、
そこを生きる、フィクションの自分に嫉妬する。
自分が手に入れ損ねた自分は、いつも幸せそうに笑っている。
虚像のくせに、まさしく実像であるはずの僕を苦しめる。
どうせお先真っ暗だ。
正しい物語はあっちで、僕が生きるのは、ボツの方。
だが、僕は選んでいた。
今というシナリオを選択したのは、他でもない僕だった。
もう、あの分岐点に戻ることはできない。
僕には、今というシナリオを、書き進める義務がある。
僕には、僕の書く物語を楽しみに待つ、僕という読者が待っている。
一度捨てたシナリオを、見返す暇なんてない。
もうひとつの未来から笑いかけるあいつなど、殺してやれ。
僕は自ら一方の未来を選び、それと同時に、自ら他方の未来を捨て去った。
だから、僕は、今から続く未来に向けて、筆を進める。
いつか彼が、
ああ〜、おもしろかった。
と言って、この本を閉じられるように。
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