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十人十色でいいよね

この写真↑はお正月に義理の両親の別荘で撮ったものです。
今日はこれを見ながら、ふと、あの時一緒に過ごした二人の少女のことを思い出していました。
マリーとクロエ。
マリーは義理の姪、クロエはマリーのお友達です。
二人ともお誕生日が一緒でまもなく12歳になるとか。
こちらの女の子は成熟が早いのですが、彼女達はプレ・ティーンというよりは少女っぽさが勝っていて、二人して別荘の中をかわいいネズミのように駆け回っていました。

マリーは、「女の子女の子」したタイプ。ブロンドの巻き毛にブルー・アイ、カチューシャは日替わりで、という絵に描いたようなマドモワゼル。ちょっとした仕草などから、かわいい自分が人に与える印象をよーく把握しているのがわかります。性格は、お喋りだけど確固たる主張はなく、いつも従兄弟達に丸め込まれたり、邪険にされたり。田舎では三日に一回は泣きべそかくか、拗ねているか。
それもあって、今回は仲良しのクラスメート、クロエを田舎の別荘に招待した、とのことでした。

このクロエですが、マリーとは対照的なピリッとスパイスが利いているタイプ。鉛筆のように細い身体をジーンズとスヌーピーのトレーナーに包み、ストロベリーブロンドのストレートヘアは無造作にゴムでまとめるだけ。美少女ではありません。 でも、小さくてよく輝くマロン色の瞳は、面白いことを逃さないぞ、と常に周りを観察しています。

わたし達夫婦が別荘に到着すると、クロエは、興味津々という顔で自らボンジュールしに前に出てきました。「私、いつか日本に行くのが夢なんです。日本語でボンジュールはどう言うのですか?」といきなり質問がスタートし、このあと、幾つの質問に答えたことでしょう。少なくとも、日本には香港はなく、広東風焼き飯は和食ではなく、東京は日本の首都だということはわかってくれたはず。

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滞在中、わたしがガレットデロワもどきを作っていると、「ぐりとぐら」ならぬ、マリーとクロエがやって来て、「手伝ってもいい?」と聞いてきます。「もちろん」と応えると、「わあ!」と、それだけで顔を明るくさせて喜ぶ少女達。

クロエは好奇心一杯で、「それは何?」「なんでそうするの?」と質問も多く、「フェーブを二つ入れたら?」「上に模様描いたら?」と提案もある。

マリーが、ボウルにこびりついたチョコレート入りフランジパンを「舐めてもいい?」と聞くので、「もちろん」と応えると、再び「わあ!」と二人して喜ぶ。かわいいことったら。

クロエはこのガレットが気に入ったようで、「レシピを教えてね」と大人びたことを言います。「うんうん、もちろん」と笑ったのですが、実は真剣だったよう。翌日、皆より一足先にわたし達家族がベルサイユに向けて発とうと、荷物を車に積め込んでいると、クロエが新聞記者がごとく、メモ用紙とペンを手に「ガレットのレシピを下さい!」と詰め寄ってきました。もちろん教えましたとも。ついでに、ここにも記しておきましょう。

Galette des Rois (ガレットデロワ、東方の三賢者がイエス様の元に到着した、エピファニーに食べるお菓子です。
オーブンを180°にしっかり予熱炊きします。
・有塩バター 100g
・砂糖 100g
・全卵 2コ
・アーモンドプードル 100g
これを混ぜるとフランジパンとなります。ここに私はチョコレート200gを刻んで加えました。
円形のパイシートに、このチョコ入りフランジパンを広げ、サイコロ状に切った洋梨小1個を適当に散らし、フェーブも置いて、もう一枚の円形パイシートを被せます。端をしっかりと閉じ、中央にお箸でプスッと空気抜きの穴を開けます。さらに、上に焼いたときに照りが出るよう、溶き卵を塗り、オーブンでこんがり膨らむまで焼きます。

ベルサイユに帰る車中で、息子達は「クロエの方がマリーより気持ちよい女の子だった」と言ってましたっけ。わたしもマリーには悪いけれど、同感です。すでに自我が確立しつつあるクロエと、自我はないけれど自意識だけはあるマリー。ま、マリーの性質は外見が可愛い子の宿命とも言える?

……と、ここまで考えて、わたしはどんな少女だったのだろう、と自分を思い返します。

自我......ありませんでした。いつもぼーっとしていて、「ミキ、口閉じなさい!」としょっちゅう叱られていたっけ。
太めの小ブスだったので自意識もなかったですよ。
頭も悪く、努力もしないので成績も悪かった。末っ子気質の 悪い面というのでしょうか、甘えた考えを持っていて、依存的だったし、自慢できるようなことはないのにえばりん坊で、サボることばかり考えていて、クロエのように、未だ見ぬ国への好奇心もなく……。
一言でいえば、絶望的な少女ですよ。将来性ゼロ。

そんな少女だった私がやがて受験します。徹夜します。失敗します。成功します。ギリギリ引っかかります。冷や汗ものです。
家庭の問題がために涙を流します。堪(こら)えます。傷つきます。立ち直ります。でも 引きずります。
恋にのぼせ、振られます。振ります。調子に乗ります。振られます。
結婚したいのに、出会いがありません。出会います。別れます。
仕事もします。能力が足りません。長けてきます。飽きます。転職するけれど能力が及びません。フィットしません。迷います。
現状に耐えられなくなり、渡英します、渡米します。
フランスへの好奇心なんてなかったのに、気づくとフランスにいます。
日本への郷愁は募るけれど、中々帰れません。

あのぼけーっとした太っちょの少女が、こんな山あり谷ありの人生を歩むとは、誰が思ったことでしょう。
もし、あの時の自分に会うことができるのなら、ぎゅっと抱きしめてあげたい。そして忠言するのであれば、「眼を大きく開いて。これからのジャーニーの景色をしっかり見ておきなさい」とだけ、伝えたい。
結局、そこですよね。どんな景色を見てきたか。それがわたしの宝物です。

今度マリーに会ったら、もっと話を聞いてあげようと思います。将来、思いがけない人生を歩むかもしれない彼女の、「今」を聞いてあげたい。
いつかクロエに会うことがあったら、質問にできるだけ応えてあげたいと思います。

そんなことを思った午後でした。
さて、フランスは明日より夕方6時以降の外出が禁止となりました。また生活リズムが微妙に変わります。頑張ります。
どうぞ皆様も Stay safe!

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