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迂回しながら社会復帰すること

精神科医の中井久夫さんの本を読んでいる。

私は、いわゆる"社会復帰"には、二つの面があると思う。一つは、職業の座を獲得することであるが、もう一つは"世に棲む"棲み方、根の生やし方の獲得てある。そして、後者のほうがより重要であり、基礎的であると私は考える。安定して世に棲みえない人に働くことを求めるのは、控え目にいって過酷であり、短期間でしか可能でないだろう。 『世に棲む患者』より

病気が治ったら働けるわけではないし、働いているからといって病気が治ってるわけではない。完全には治るわけではない、寛解と言われるような、心の病の状態で働くことはそんな不安定さの上に成り立っている。「治る」ことは、病気する前よりもずっと元気になることだろうか。

一度、どん底の心の状態になった経験は、人を元の状態には戻してくれない。むしろ、元気になってもまた再発するかもしれないと怯えながら生きている。

元気であってもなくても、たくさんのことを願っても、実際には少しのことしか叶わない。だから、ちょっとずつ出来そうなことを探していく。彼は探索行動と呼ぶ。それはちょうど、一つの基地を起点として、行きつ戻りつ、少しずつ動ける範囲を探して広げていく行為だ。

そうやって、じっくりと続けられそうな生活の仕方を掴んでいく過程は、回り道をして遠回りして迂回してばかりにみえるかもしれない。けれど、心を擦り減らさずに、世の中に生活を置いておくためにはこうした迂回できる場所や時間、余裕が持てる気持ちが必要だ。長く、いつまでも付き合っていく覚悟で、私は迂回しながら、細い希望を見つけて生きていく。


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