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そうだ。推しを立体化しよう。2

 推し活の先達が私に示してくれたのは、プラ板に転写して作るキーホルダーだった。
 推し活に限らず、愛と発想の勝利で生み出される創意工夫の数々を惜しみなく提供してくれる方々には尊敬と感謝を捧げたい。私にとっては魔法使いである。
 そんな偉大な魔法使いの導きでプラ板と再会した私は、いよいよ推しの召還を試みるのだった。


火事ダメ絶対(注意事項は厳守せよ)

「あーれ……5分くらいって言ってるけどな……10分擦っても……うーん……」
「……まあ、びちゃびちゃになるよね。うん、知ってた。掃除も想定してた……」
「あー……うん。よし。ネバーギブアーップ」
 1回目はこうだった。

 2回目は、練習も兼ねて亡き愛犬を転写してみた。
「ぎゃー! 燃えたー!!」
「え、ま、速乾っていっても、ええ!?」
「…………」
 お手本の動画でしっかり注意喚起されていた。クッキングシートは燃える可能性があると。幸い部屋が焦げ臭くなるだけで済んだ。火事ダメ絶対。
 UVレジンの「速乾性」を甘く見ていた。元にした画像が暗すぎたのと愛犬が白いために、何が写っているのかわからない。2回目の方が「失敗」と強く感じた私に、諦めがちらついた。


失敗したそこでやめるから挫折になる

  挫折してやめるから失敗になる、だったかもしれない。昔好きだった漫画内のセリフである。

 湧いた諦めをペイっと振り払うと、私はいそいそとプラ板を買いに行き3回目に挑戦した。
 いとも簡単に諦めを振り払えたことに、内心驚いていた。諦めず投げ出さなかった自分に「おお~!」と拍手した。小さな変化を感じ自分を褒めることはとても大切である。他人の視線よりまず自己肯定感。
 クッキングシートをアルミホイルに替え、UVレジンをやめた。転写面を保護するのが目的だったので、替わりにホログラムシートを貼った。最後にチェーンを通したそれは、キーホルダーにしては巨大だし歪だったが、達成感と満足感を私にくれた。


発想は斜め上に飛び立つ

 異なる画像を使い、無事2人召還に成功した。私は2人をそそくさと梱包し、手提げ袋に入れた。今度は何を始めるのか。
 私の脳ミソは本人の気持ちそっちのけで勝手に高みを目指していた。

「そうだ。推しを立体化しよう。そしてプレゼントしよう。本人に」

 脳ミソは既に知っていたのだろうか。推しと対面する機会が降ってわいてくると。占いでラッキーデーと言われたその日に、ちょうどいい時間帯に、急遽推しがライブを行うことになると。

「もしも不快に思われたらどうしよう。勝手に画像使って著作権どうなんだろう……」
「ええい、何を気弱になっている。『自分がやりたかったからやる』それ以外に何が重要だと言うんだね。この機会逃してなるものか四の五の言わずレッツゴー」
 ライブの通知を目にした途端脳ミソに乗っ取られた私は、かくしてライブ会場に降り立つ。当初の目的なんだっけと思いながら。

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