なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学 感想
最近、橘玲氏の連載記事やX(旧Twitter)アカウントをフォローし始めたため、進化心理学に興味を持った。
進化心理学は恋愛や心理を進化の結果生まれたものとして取り扱うものであり、その情報が書いてある本を探していた。
その本の名は「なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学」であり、著者はジェシー・ベリングである。
本書を読んだ感想を今回の記事で書いていこうと思う。
1.科学者としての態度
シモの話が多すぎるのだ。
そもそも、本のタイトルがペニスの形に対して疑問を呈しているのであるから、内容はタイトルと嘘偽りがないと驚いた。
本書は真面目な科学理論や研究内容を記した本ではないものの、科学者としての態度は誠実である。
本書は科学に重きを置いたエッセイであるから学術本ではないのだがーーそもそも理系・文系問わず信頼できる本は引用先や注釈を丁寧に書いているーー著者が実験内容や事実を述べる際は、裏付けとなる根拠や論文、実験結果を注釈として参照できるようにしている。
著者は外国人であり、たとえ日本人であろうとも論文は英語で書くものだから英語が読めない私は注釈の原文にあたることが出来ない。
また、本書はエッセイでありながらエビデンスの積み重ねや仮説、反証を時系列順に説明していくためとても読みやすい。
ある仮説を立てた後、仮説の裏付けとなるエビデンスや仮説に反するエビデンスを区別して記述しているためーー原題は2012年に刊行されたため、論拠が最新のものとはいえないもののーー分かりやすいのが特徴といえる。
2.面白かった部分
私が本書を読んで面白かったところや興味深かったところ、考えさせられたところを紹介しよう。
2-1 ペニスの亀頭冠
ペニスはその長さからソーセージやバナナに例えられるーーふたりエッチではバナナに置き換えられていたーーが、真っすぐな見た目をしている部分は柄であり、先端部はキノコのようにカサがある。
本書ではある科学者ーー著者ではないーーが、とある仮説を立てた。
ペニスが奥深くまで挿入されると子宮頚部までに届き支給を押し上げるし、射精の力は膣外でなら60センチくらいまで押し上げるらしい。
二卵性双生児の父親が二人いるという例から、競争相手が自分のパートナーを妊娠させることを防ぐためにペニスが形作られるようになったというのだ。
具体的にいえば、性交中のピストン運動に伴って亀頭で精液をかき出すのだ。
この仮説を聞いて私は紙魚丸の漫画「仕事明けだから、しょうがない!」を思い出したのである。
この漫画は女性漫画家が締め切りギリギリで単行本制作を終わらせて、二人のアシスタント(男子大学生)に手を出すという話である。
紙魚丸氏の漫画のヒロインなので、眼鏡っ子かつ巨乳という設定だーー一般紙で連載した惰性67パーセントの主人公である吉澤や後輩にあたる上沼も眼鏡っ子であるーーが、性交中に人のペニスの由来の話をしたり、ダイエット中の糖質制限はかえって太るという話をして、雑学やサブカル知識を披露しながらまぐわうということが紙魚丸氏の漫画の特徴である。
キャラクターの行動や台詞にコマ外からツッコミや注釈を入れることもあるので、スーパーマリオくんやゆうきまさみを思わせることもある。
閑話休題。
そんな仮説の要点を確認するために研究者たちが行った実験内容がとても興味深い。
まず、研究する前に大学の倫理研究審査に承認を受けてから行ったそうだ。
実験の道具をそろえるためにどうしたのかというと、オトナのおもちゃ屋に行ったそうなのだ。店でペニス型のおもちゃーー亀頭なしが1つと亀頭ありが2つーーと女性器の形をしたおもちゃを購入したらしい。
そして、忘れてはいけないものは精液である。精液をペニスが掻き出すという仮説を立てたのだから精液が無ければ始まらないーー精液はフィニッシュ時に出るものだけれどーーのだ。
疑似精液の作り方を引用しよう。
何と我々の身の回りにある食品で疑似精液を作れるというのだ。
ペニスの模型をオトナのおもちゃ屋で調達するのだから、疑似精液も安くお小遣いの範囲内で調達するだろうと思ったけれど、食品で作れるとは驚きである。
今後、精飲ものや食ザーものーーアダルトコンテンツにおいて精液を飲んだり食べ物にかけて食べるジャンルがあるーーを見たときは、女優があまり上手とはいえない演技をしても小麦粉で作れるものだから素の表情が出たのだと安心して見られるというものだ。
またしても話が逸れてしまった。
亀頭冠がある模型はほとんどの疑似精液を搔き出すことができたが、亀頭冠のない模型は掻き出すことが出来なかったのだという。
また、アンケートを第2の実験として取るのだが、女性パートナーに不倫疑惑が生じたり遠距離カップルが久しぶりに再会した後では、意識的にせよ無意識的にせよペニスを奥深くまで挿入するのだという。
また、本書のペニスの亀頭冠エッセイは猫のペニスの説明で終わっている。猫のペニスは棘を持っていて膣の内壁を引っ掻く。
本邦のエロ漫画に触手ものというジャンルがあり、触手には棘が付いていたり我々人間とは異なる形をしている。触手によってヒロインが妊娠するという結末を迎えるものがあるのだが、射精をしてふと冷静になった時にこのように思うのである。
「種が違うのに何故妊娠するの」
考えてしまったら最悪なのだ。何が最悪であるかといえば今後ネタに使えなくなることである。
2-2 精液の効能
レズビアン同士では月経周期が同期しないのにも関わらず同居する異性愛女性は同期しているという。
その違いにある仮説を立てた。
それは生殖器官内の精液が同期に関わっているのではないかということであり、心理や生理に影響を与えているかということである。
精液には精子だけでなく精漿が含まれており、成分はオキシトシンなどの成分が含まれているとのことだ。
他にどんな成分が含まれているかについては自分で本書を購入して確認されたい。
実験の結果、コンドームを使わない女性の方がコンドームを使う女性よりも鬱の症状が少なかったということが分かり、コンドームを使う女性も性行為を全くしない女性も鬱の度合いは近いということが分かったらしい。
勿論、鬱かどうかはその人の性的事情だけでなく労働環境や人間関係によっても変わってくるし、鬱でなくても精液由来の成分が確実に影響しているとはいえないためだ。
精液由来の成分が女性の生理や心理に影響を与えている可能性があるという箇所を読んで、またしてもエロ漫画を思い出してしまった。
赤月みゅうと氏のエロ漫画「リンガフランカ」は無人島に遭難した主人公がヒロイン達に子種を求められるという話である。
物語の鍵を握るヒロインが二人あるのであるが、ヒロインたちは宇宙人であり他の惑星を侵略するか、それを阻止するかが出来るのである。そして人間の精液に反応して自身の使命を思い出した後、無人島ーー実は機械仕掛けであるーーを動かすことが出来るのだ。
精液に精子だけでなく化学物質が含まれているのであればヒロインたちが人間の精液に反応して機械仕掛けの無人島を動かすという設定に無理は生じないはずである。
リンガフランカの面白いところはまだあるのだ。
ヒロインたちが無人島に漂流した主人公に何故迫るのか、という理由付けをしているからだ。
女だらけの島に行って男がいないから主人公の種を求める、ということはあり得るだろうが、それは一部の女や少数の女の話であって全ての島中の女が主人公の種を求めるわけはないだろう。
この物語では島の全ての女が主人公の種を求めるのだが、彼女たちは地球を侵略するために産み出された生体兵器なのである。
なんとヒロインたちが産んだ子や子孫たちはやがて不妊になってしまう存在であり、彼女たちの遺伝子が流出ーー島外へ出てよそ者と交わって子供を持つーーしてしまうと、人類は全て不妊化してしまうという存在なのだ。
物語中ではヒロイン達と主人公の遺伝子が混ざり、島外へ漏出することを不妊虫放飼法ーーウリミバエにガンマ線を浴びせて不妊化した後、自然に放ち対象害虫を絶滅させる方法ーーに例えて説明している。
性的なものは人類が存続する限り人々にとって注目の的であり続けるものだから、アダルトコンテンツは需要がある。
そんなアダルトコンテンツで主人公とヒロインとの交わりを不妊化した害虫の放し飼いに例えたセンスや、ヒロインと主人公との交わりによって誕生する新たな命が実は人類に破滅と不妊をもたらす厄災であることなどはエロ漫画とは思えないほど冷徹で俯瞰的だ。
ポルノは煽情的なものである。
エロ漫画は読者を興奮させるためのものであり、現実の女性が絶頂しにくいのとは逆にエロ漫画のヒロインたちは段階を踏んで絶頂する。
最初は吐息だけだったのが小さい喘ぎ声に変わり、やがて大きな喘ぎ声へと変わってーー眼がハートマークになるなどしてーー絶頂へと至るわけだ。
リンガフランカもその型からは外れていないもののヒロインの絶頂によって物語が進んだり謎が解けたりするし、絶頂後のピロートークーー抜き処を過ぎた辺りーーで物語の設定や世界観を説明するものだから、読者としても読みやすい。
3.終わりに
読書感想文といっても途中からベリングの本を読んで何を連想したかの話になってしまって申し訳ない。だが、性についての話題が出たから安易にエロに繋げてしまったのは私がエロ漫画を読みすぎてしまっているからだ。
この記事を読んだ皆さまはアマゾンで購入して読んでいただきたい。
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