見出し画像

テニス中の事故と法的責任 4/4「過失が認められた事例」

テニス事故の法的責任の記事の最後は、法的責任が認められた事例です。
事案は、球拾い中に起こった事故の事例です(横浜地判昭和58年8月24日判時1091号120頁)。

【事案の概要】
 本件の原告は,初級者クラスに在籍するテニススクールの生徒でした。当該レッスンでは,コーチが球出しを行い,ベースラインに立った生徒2名がバックハンドを打つという基本的な練習をしていました。ただこの時,コーチは残りの生徒に対し,球出しのボールが途切れないようにボール拾いを指示していました。
 すると,バックハンドの練習をしていた受講生一人の打ったボールが球拾いをしている受講生の目に当たり,大けがをしてしまいました。
 けがをした受講生は,スクールの経営会社に対し,損害賠償の請求を行いました。

【裁判所の判断】
 裁判所は,次のように判示して,原告の請求を認めました。
 テニススクールのコーチは,受講者の生命・身体を損うことのないようにその受講者の資質,能力,受講目的に応じた適切な手段,方法で指導をなすべき注意義務がある。
 それにもかかわらず、当該コーチは、主婦で初心者の原告に対し,練習者の近くでボール拾いをすることの危険性やその危険防止について何の指導もしないまま,ボールが衝突する危険のある状況でのボール拾いを指示してこれをさせている。
 この結果、傷害を負わせるに至ったものと認められるから,コーチは上記注意義務に違反している。スクール側も、使用者として原告の損害を賠償すべき義務がある。

 このように、練習中の事故でも法的責任が伴うことがあります。
 「スポーツ中だから仕方がない」「ルールの範囲だから仕方がない」というような大雑把な判断はほとんどされません。
 コーチに過失があれば、コーチを使用している人、会社なども責任を負うことがあります。使用者が「きちんと指導監督していた」という反論は、なかなか認められにくい傾向があります。

 法的責任が認められる事例と、そうでない事例にはどういう違いがあるのでしょうか。
 これは個別事例での判断なので一概にはいえませんが、以下のような事情が考慮されていると思われます。
 まずは当事者の立場です。前回紹介した裁判例では、当該クラスが上級クラスであったことが考慮されていました。今回の裁判例でも、「主婦で初心者の原告」という事情が指摘されています。やはり、当事者が自分で身を守れるかどうかはレベルによっても違いますから、それによってコーチ側、スクール側が何をすべきかも変わってきます。
 練習やプレーの内容も重要です。その練習やプレーがテニスにおいて通常行われるものといえるかどうかについて言及した裁判例があります。前回紹介した裁判例でも、半面でのボレーストロークという練習は通常の練習だということが考慮されています。
 そして、具体的に安全指導が行われていたかも極めて重要です。今回紹介した裁判例では、「危険性や危険防止について何の指導もしない」という判示があり、こうした指導をしていれば結論が違っていた可能性もあります。また、前回紹介した裁判例では、スクールの受講規約についても言及されていました。

 今回、責任が認められた事例とそうでない事例を紹介しました。
 いずれもスクール内での事故でしたが、これが公式試合中、練習試合中、仲間のプレー中、など場面によっても判断は変わってきます。
 
 プレーする方は無茶なことをせず安全にプレーする。教えたり、イベントを主宰したりする方も安全に十分配慮する。テニスは接触も少なく安全なスポーツの一つだと思いますが、一定数の事故は起こりえますので、安全第一でプレーすることを心掛けたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?