テニス中の事故と法的責任 1/4「責任の根拠」
弁護士の山本と申します。
私は個人ブログ「弁護士山本衛 on Court」
https://yamamoto-defender.com/
というブログを持っているのですが、この度noteを始めました。
「テニス関係者の法律相談室~弁護士の視点~」
というマガジンを、テニスを愛してやまない弁護士たちで書いていこうというプロジェクトを立ち上げたのがきっかけです。
個人ブログでの情報発信は引き続き続けていこうと思いますが、こちらのnoteの方は比較的ライトに読めるような記事を心がけていこうと思います。
そして、私以外の紙尾弁護士、田中弁護士、柳川弁護士、発田さん(法学部生!)の記事もとても参考になりますので、この記事を見られた方は、ぜひマガジンから他の記事もご覧いただければ幸いです。
さて、記念すべき第一回は、テニス事故に関する投稿です。
おととしの日本テニス学会で、「テニス中の事故に伴う法的責任と現場の対応」(発田さんとの共同研究)を発表しました。テニス中の事故について裁判例研究を行ったので、これを一般の方向けにかみ砕いてお伝えしようと思います。
まず、今日はその1回目、テニス事故に関する一般的なお話をします。
テニスで事故があった場合、どのような責任を負うでしょうか。
まず事故といって真っ先に法律家が思いつくのは、「不法行為」です。
「不法行為」という響きはなんとなく物騒ですが、条文はこうなっています。
【民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」】
表現が難しいですが、故意や過失で損害を第三者に与えてしまったら、損害賠償をしなければいけないということです。故意に人にボールをぶつける人は(ふつう)いないでしょうから、事故で問題になるのは主に過失です。要するに、不注意でプレー中にケガをさせてしまった場合には、そのケガによる損害を賠償しなければいけないということになります。
「不法」といっても、不正、不当、悪い、という意味を含まない専門用語で、契約関係のない他人同士の間に債権が生じる根拠の一つ、とされています。けがをしたほうは、けがをさせたほうに、損害賠償請求ができるということです。
関連して重要な条文があります。
【民法715条1項「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」】
これは、「使用者責任」といわれるものです。たとえば、プレー中に事故が起こった時、ケガをさせる原因になったのがスクールのコーチだとしましょう。コーチを雇っているスクールは事業のためにコーチを使用している者ですから、この条文によって損害賠償責任を負うのが原則になっています。
「相当の注意をしたとき」「相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」という例外が定められていますが、この例外に当たる場合は、多くないといわれています。
ケガをさせた側が学校関係者だったらどうでしょう。
公立学校の場合、
【国家賠償法1条「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」】
という法律があって、公務員である学校関係者が属する国または地方公共団体が責任を負うことになります。たとえば、都立高校の職員が生徒にけがをさせてしまった場合は、東京都が責任を負う可能性があります。
ケガをした人とケガをさせた人との間に契約関係があることも当然ありますね。たとえば、テニスコーチのプライベートレッスンをお金を払って受けていたら、コーチと生徒との間では契約関係があります。ここにおいて、コーチが無茶な球出しをした結果転倒して大けがをしてしまったとしましょう。もしこのコーチの行為が、契約内容にそぐわないものであった場合、
【民法第415条「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」】
という規定で損害賠償責任(債務不履行責任といいます)を負う可能性があります。事故の場合は、特に、契約上必要な安全上の配慮を欠いたという理由で債務不履行責任が肯定されることがあります。
このように、一つテニス事故をとっても、当時の状況や相手との関係によって、責任を負う根拠や相手が変わってくることがわかります。
今日はテニス事故(テニスに限った話ではないですが)で損害賠償責任が生じる根拠について記載しました。
もちろん、この法律上の根拠だけで損害を賠償すべきかどうかが決まるわけではありません。重要なのは、この法律上の根拠に、個別の事案があてはまるかどうかです。
次回は、特に重要な「過失」という概念についてお話しする予定です。
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