見出し画像

法律家ってどんな専門家?③テニスのルールを題材に

前々回↓
https://note.com/lawyeryamamoto/n/nb12fe3765daa
と、前回↓
https://note.com/lawyeryamamoto/n/n47d56c6fbd3b
の続きです。

事例のおさらいをしておきましょう。
私が、かみおひろみち@Kamy1126先生とテニスのシングルスのゲームをしていました。しかし、ゲームの途中、かみお先生が「山本がボールを打つ時のうなり声が大きすぎて集中できない。これは故意の妨害ではないか」と主張しました。

この紛争が、法廷に持ち込まれたとしましょう(なお、実際は、裁判所はこういう紛争は法律の争いじゃないとして受け付けません。プレー中の争いは、スポーツ仲裁などの対象にもならないのがふつうです)。

かみお先生は、
「規則26 妨害
 インプレー中、相手が故意にそのプレーを妨げた場合は、相手の失点になる。しかし、相手が故意ではなく無意識にプレーを妨げた場合、またはプレーヤー・チームに責任のない何かの物体がプレーを妨げた場合は、ポイントのやり直しとなる(パーマネント・フィクスチュアは含まない)。」
という規定に基づいて、山本の行為が妨害であったことを主張し、立証しなければいけません。

まず主張です。これは、やみくもに「妨害だー!」と主張しても、法的な主張にはなりません。
前々回の記事で書いたとおり、法律は要件と効果で成り立っています。したがって、法的な効果を発生させるために、要件となる事実を主張しなければいけません。

「失点」の要件は、「故意に」「そのプレーを妨げた」(=妨害)ことです。
原告(かみお)の主張は、被告(山本)が打つたびにうなり声をあげたことを根拠としてこれを妨害したというものです。したがって、主張は、
1 令和3年●月●日、シングルスの試合中、被告は打球時にうなり声をあげ、原告のプレーを妨げた。
2 被告は、1の行為を故意に行った。
となりそうです。
ところが、前回の記事で書いたとおり、うなり声は通常のプレーでも想定されます。裁判所の見解によれば、うなり声は妨害に当たりえますが、それが通常想定される程度のうなり声でない場合、すなわち受忍限度を超えている場合に限り、妨害と認められるという見解でした。
したがって、「1」で記載した事実の適示だけでは、「プレーを妨げた」ことを適示する事実として十分ではありません(法律のことばでは、「主張自体失当」といいます)。
そこで、上記「1」「2」に加え、
3 1が受忍限度を超えていた。
と主張しなければいけません。
しかし、「受忍限度を超えていた」というのは事実ではなく評価なので、さらにかみ砕いて
3 1が受忍限度を超えていたことを示す評価根拠事実
 ⑴ 被告は毎ショット声を出していた。
 ⑵ 被告のうなり声は平均●●デシベルだった。
 ⑶ 会場は被告のうなり声以外の雑音はなかった。
など、具体的な事実を主張しなければいけない決まりになっています。
このようにして、「1」~「3」で、法的な主張が成り立っています。

続いて、立証です。
かみおさんは、上述した「1」~「3」(「3」については、具体的な⑴~⑶の事実)を証明しなければいけません。
「1」に関しては証明は難しくなさそうです。が、「2」の「故意」は難しそうですね(難しいと判断した場合、予備的に無意識の妨害も主張しておかないと危険そうです)。「3」は、当時のビデオや、実際に声の音声を機械で測ってみたり、現場に足を運んだりして立証を試みます。

これに対し、被告である私は、
「1」は認める。
「2」は否認する。
「3」⑴は否認する。毎ショットは声を出していない。
   ⑵は不知。
   ⑶は認める。
などと、主張への対応を明らかにしたり
「受忍限度を超えていたことの評価障害事実」として
⑴ 原告は被告と対戦した別機会に同じクレームをつけたことはない。
⑵ 原告は「僕はうなり声でやられたりはしない」とtweetしていた。
(すべてフィクションです)
など、原告の主張に対する被告側の主張(「抗弁」といったりします)を出して主張立証したり、原告の立証に対する反証を行ったりします。

実際は、これを「法律」などに基づいて行うわけですから、法律のただしい理解と解釈が必要になります。そうすると、この作業は極めて専門性の高い作業になっていきます。

今日は少し難しかったでしょうか。
3回に分けて、法律家の専門性とはどういうところにあるかをお話ししてきました。もちろん、これは法律家の専門性のごく一部というか最も基本的なものについて述べただけで、法律家の専門性がこれに限られるという意味ではありません。

法律家の仕事はとても専門的な仕事です。法的な問題が生じたとき、自分で対処しようとするととんでもない間違いを犯すおそれがあります。出来るだけ早く、私たち専門家に相談されることが推奨されます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?