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【クリエイターの法務】利用許諾の終期(貴船神社写真事件判決)

カメラマンにとって、自身の撮影した写真についてコントロールをしたいと希望がありますが、無限定に即座に利用を停止するということができないケースもあります。そういった一つの参考になるのが、昨年12月の貴船神社写真事件です。※同期が代理人にいたので特に目についたというのもあります・・・

1 事案(京都地方裁判所令和3年12月21日判決)

カメラマンである原告が、被告広報担当者を通じて被告に提供された写真について、無償で提供されていたところ、広報担当者の退職に伴い、写真利用について解約をしたとするもの。

2 判決ポイント 

写真提供・HPでの利用について、①原被告間の利用許諾契約を使用貸借契約(類推)ではなく、信頼関係を基礎とする継続的なものであるとし、②解除にあたっては相互に,当初予定されていなかった態様で本件写真が利用されたり,当初予定されていた写真撮影の便宜が提供されないなど,信頼関係を破壊すべき事情が生じた場合には,催告の上解除することができる」とし、③②の場合にあたらないとしても、相手方が不測の損害を被ることのないよう,合理的な期間を設定して本件写真の利用の停止を求めた上で,同期間の経過をもって本件利用許諾を終了させることとする解約告知であれば,許容される余地はある、と判断。

3 ①利用許諾契約の性質と解除根拠

まず、写真の利用許諾契約がどういう性質なのかによって、解除をどう言った根拠とするかが変わってきます。

この点について、原告は使用貸借契約(※改正前民法597条3項)により、即座に解除できるという主張をしました。

しかし、裁判所はこの主張を退け、以下の通り判断しました。

前記認定事実によれば,本件利用許諾は,原告が継続的に被告の協力の下で貴船神社の年中行事等の写真を撮影して被告に提供し,被告において提供を受けた写真をウェブサイトや SNS 等に使用して,被告の広報あるいは宣伝に利用する一方で,原告においても前記写真を適宜 SNS で利用し,原告の宣伝広告に役立てることを,無期限かつ無償で承諾することを内容とする包括的な合意と解される。
原告は,本件利用許諾により原告が受ける利益はないと主張するが,被告の協力により一般参拝者では撮影困難な構図の写真を撮影することができ,被告の広報写真に採用されていることを実績とすることができる点で,一定の利益があることは否定できない。

消費貸借は、いわゆる借金(金銭消費貸借)が思い浮かびますが、ブツを借りて、それを使ってしまい元と同じ性質のものを返すという形です。これに類似するという主張を原告はしたわけですが、継続的なやり取りなども踏まえ、裁判所はこの主張に乗らなかったわけです。

本件利用許諾は,単に原告が過去に撮影した写真の利用を個別に一時的に許諾するものではなく,継続的に撮影した多数の写真を,相互に広報,宣伝に利用することを前提とした複合的な合意といえるものであって,民法上の使用貸借契約の規定を単純に類推適用するのは相当ではない。

そして、そのうえで解除については、長期的なやり取りが継続していた種々の事情を踏まえ、

本件利用許諾は,無償であるとはいえ,双方の活動又は事業がその継続を前提として形成されることが予定され,長期間の継続が期待されていたということができ,個別の事情により特定の写真について利用を停止することは別として,本件写真全部について,一方的に利用を直ちに禁止することは,当事者に不測の損害を被らせるものというべきであって,原則として許容されないものというべきである。
もっとも,本件利用許諾は,信頼関係を基礎とする継続的なものであるから,相互に,当初予定されていなかった態様で本件写真が利用されたり,当初予定されていた写真撮影の便宜が提供されないなど,信頼関係を破壊すべき事情が生じた場合には,催告の上解除することができると解される(民法541条)。

として、相互に信頼関係が構築されていることをもとに、民法541条という契約の一般的な解除事由に基づく解除は肯定しています。

ただ、これだけでなく、

上記解除することができる場合にはあたらない場合であっても,相手方が不測の損害を被ることのないよう,合理的な期間を設定して本件写真の利用の停止を求めた上で,同期間の経過をもって本件利用許諾を終了させることとする解約告知であれば,許容される余地はあるものと解される。

一定期間を定めたうえでの契約終了告知も許容される余地があると判断しました。

これは、信頼関係が破壊されたという形でなくとも、解除できる余地を残したということですね。

そのほか、解約には正当理由という原告の主張については否定がされています(広報担当者が退職することに端を発したのか、原告の動きもあまりよい動きと断言はできないかなと思います。)

4 ②解除効果の発生時期(予告期間)

では、信頼関係破壊がないとして、原告がした解約告知の効力はいつ生じるのか。

この点は、写真の差し替えなど個別事情から判断されていますが、

これらの事情を考慮すると,原告が一方的に解約告知をした場合に,本件利用許諾の終了に至る予告期間としては,原告が削除等を要求した令和元年9月13日から1年3か月後の令和2年12月12日までを要すると認めるのが相当である。

かなり長めにとったな、という印象です。

本件だと、貴船神社の1年間の境内等の写真ということでしたから、差し替えにあたり別のカメラマンに撮影を依頼するなど、そういった手間暇がかかることに鑑み、こういった判断になったものと考えられます。

なので、すべからく利用許諾を受けた写真については解除する=1年強は削除しなくても著作権侵害と言われないと判断するのは間違っていますので注意してください。

5 最後に

カメラマンに限らず、契約関係を解消して、自身の成果物を相手に使わせないようにするということはよく相談もあるところですが、その長さはさておき継続した関係を気づいている中で即座に成果物の使用を中止するということが難しい場合があるのが実際のところです。

今回が一般的な事例というわけではないでしょうが、クライアントとのトラブルに際し、自身が成果物を出している場合に、それについてどう言った策を取ることができるのか、どういう結果が考えられるのかという一つの参考例になるのではないかと思います。


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