留学生に慕われる北九州の心優しいオーナーさんの姿とは
全国にあるローソンのオーナーさん・クルーさんに、マチの魅力とご自身との関わりをインタビューする企画「#マチのほっとステーションをつくるひと」。
第5回目は、福岡県北九州市で10店舗を経営する城戶美由紀(きどみゆき)オーナーにインタビュー。多くの外国人クルーを採用し、そんな留学生クルーたちに日本のお母さんと慕われる城戸さんの人柄、街に暮らす人たちとのつながりを伺いました。
優秀な人材なら国籍は関係ない。たまたま外国人の方だっただけ
本日は、よろしくお願いします。城戸さんの経営される10店舗では、外国人留学生のクルーさんが多いという前評判を伺ったのですが、どれくらいの外国人クルーさんが働かれているのですか?
おおよそ半分くらいは外国人の方ですね。
それは、この地域に外国籍の方、留学生が多いといった理由があってですか?
うちのお店だけ特別多いと思います(笑)。この北九州市には、私のように複数のローソンを経営しているオーナーさんが数名いらっしゃるのですが、別のオーナーさんのお店では1〜2人くらいかなと。
逆に、何か理由があって外国人の方を雇用されているとか…?
よく言われるのですが、全くそんなことないです。アルバイトの募集をかけて面接に来た方たちの中で、優秀で一緒に働きたいと思った方を雇っているだけですね。
そういった事情を知らない方からは「何で外国人をそこまで雇うのか」と言われたり、逆に「外国人を安い給料で雇って、楽をしている」と言われることもあります。でも、本当にそういった意図は全くないですね。外国人でもお断りする方はいますし、日本人で採用する方ももちろんいます。
それが結果的に半数になったということですね。でも、やっぱり日本語の語彙力などが足りないといった課題も、現実的にはありますよね。
ありますね。やっぱりそこは大変です。最初は小学生用の国語(日本語)のドリルを本屋さんで買ってきて、学校以外で勉強してもらったりもしていました。他にも、資格試験の冊子を店に置いて、ここで勉強して資格を取るように薦めたりもしましたね。また、日本に肉親がいないのは寂しいだろうということで、休みの日に温泉に連れて行ったりとか、食事に連れて行ったりとか、そういうこともしていました。
ちょうど私の子供たちと同じ世代なんですよね。当時20代前半、今は20代後半の子たちにとって、私がちょうどそれぐらいの年齢だったので、おそらくお母さんみたいな感じで思ってくれていたんじゃないかなと。病気のことも相談してくれたりして。
そこまで手間暇をかけても、雇いたいと思えるというのはすごいですね。
やっぱり人柄ですね。あとは、留学生の子たちが持っている危機感というか、ハングリーさというか。自分が日本で成功しなきゃという必死さが伝わるので、そこを援助したいなっていう気持ちもあります。
留学生に伝えるコミュニケーションの重要さ
逆に、お店側にとって留学生を雇用するメリットはあるんでしょうか?
少し話は変わりますが、留学生にとってコンビニのアルバイトってすごく魅力的な仕事なんですよね。国籍に関係なく、外国人の方の多くがなんでコンビニを選ぶのかというのは、それが日本語を覚える早い手段の一つだから。作業だけでなく、お客さまとのコミュニケーションがあるのがコンビニの現場。そこで日本語と接客や営業に必要なホスピタリティも学べるんです。
そういったこともあって、留学生のクルーさんたちはお客さまに対して積極的にコミュニケーションを図って、どんどん日本語を覚えようと努力するんですよね。そうすると、機械的な接客にならないし、お客さまにもそういう気持ちが伝わるから応援してくださる。
もちろん、お客さまに最大限の接客をするために「外国人だから」という甘えはさせないようにしています。「日本のマナーとかそういうのを理解して吸収していかないとダメだよ」っていうような厳しい話もします。でも、そうやって教えたことをみんな頑張って覚えようとしてくれる。
日本人がみなさん同じとは言いませんが、日本人の方は、これまでの経験で「これは大丈夫だろう」なんて妥協することもあるのですが、留学生のクルーさんたちにはそれがない、いわば真っ白の状態なんですよね。なので、正しい失礼のない接客をちゃんと教えれば、それに向かってちゃんと取り組んでくれる。それが結果的に、お客さまに寄り添った思いやりのある接客を実践できることにつながるのではないかなと思います。
留学生と日本人のお店の中でのコミュニケーション促進はどうされているのですか?留学生が多いと、クルーさん同士もコミュニケーションが難しいんじゃないかなと思ったりもしたのですが。
私は会社の企業理念として「先義後利」を挙げていて、『利他の心』とか『人を大事にしましょう』っていうのが私のポリシーなんです。日本人・外国人といった人種に関わらず、相手を思いやる気持ちを大事にしましょうっていうのを基本的に自分の信条に置いていて、それは店内の人間関係でも同じように徹底しています。
思いやりの心って普段から持っていないと、いざという時に出てこないんですよね。毎日一緒に働く仲間を大事にしていないと、それが外に出ちゃう。だから、楽しく働いてもらうのが一番、日本人も外国人も。
もちろん、字が読めなくて、商品を置き間違えたりするようなこともあったりします。でも、それは仕方ないことで当たり前なんだよ、ということを日本人の社員・クルーに事前に伝えています。そこを理解してあげて、サポートしてあげて欲しいと、これも思いやりだよって。そうやって助け合う形を作っているので、いじめ・セクハラ・パワハラで辞めるっていう人は今まで1人もいない。これは私の自慢です。
ちなみに、なのですが、城戸さんも留学生の子たちの言葉を覚えて話せたりするように勉強されたりしたのでしょうか?
全く勉強していません、本当は覚えなきゃいけないのかなと思うんですけど、全く覚える気がなくて、一言も覚えてないです(笑)。全部日本語で対応しています。でも、彼らが日本語を覚えるきっかけになると思いますし、日本にあるお店なので日本語でいいと思っています(笑)。
成功体験による自信が、笑顔あふれる接客につながっている
これまでは留学生クルーさんのお話にだけフォーカスしていきましたが、城戸さんの、根本的なクルーさんの育て方についても伺えますか?
前オーナーさんから引き継いだ店舗に関しては、まず私が2ヶ月くらいしっかりと一緒にシフトに入って、私のオーナーとしての考え方、お店づくりなどを理解してもらい、お店を完璧に仕上げるようにしています。特に注意しているのが前陳(商品を見やすくきれいに前に出して陳列すること)と品出し。朝5時半からシフトに入って、ほぼ完璧に仕上げるんですが、でも本当の完璧、理想の形ではなくその8割くらいに抑えて、残りの2割に挑戦してもらう。そうすると、その2割をやるだけで、ものすごくできたように見えるでしょ(笑)。それが成功体験につながると思うんです。
そうやって少しずつできることを積み上げさせていくと、みんなの自信に繋がるし、仕事に来るのが楽しくなると思うんですよね。やっぱり毎日怒られるばっかりだったら、楽しくないじゃないですか。なので、綺麗なお店で気持ちよく働いてもらう。まず、そこから始めて、来るのが楽しいって思ってもらうような職場にする。日本人・外国人問わず、そういう形で育てるようにしています。
逆に、外国人のクルーさんならではの教育ってありますか?
所作と言葉遣いですね。でも、これは日本人でもあまりできていない人が多いかもしれません。言葉が通じづらい留学生はもちろん、忙しい業務の中で、言葉を交わせないシーンって多いんですよね。でも、そういう時に、相手を思いやる気持ちを表現する所作、例えばお辞儀とか、必ず両手で何かを渡すとか、そういうのはしっかりと伝えるようにしています。気持ちがあるのに、知らなくて伝わらないのは勿体ないと思うので。
言葉遣いは、短い言葉の中でどれだけ、しっかりと敬意を伝えられるかを大事にしています。例えば、謝る時は「すみません」ではなく「申し訳ございません」とか。何かを頼まれたら「分かりました」ではなく「かしこまりました」とか。こういうのも知らない子が多いので、しっかりと教えるようにしています。こういった言葉は、日本人のクルーさんでもなかなか出てこないので、お客さまも「お!」ってなると思うんですよ。そうすると、丁寧に接客したい気持ちが伝わるので、お客さまもお話したくなってくださるんじゃないかなって。
お話を聞いていて、とっても教育熱心だなと思いました。
最近、10店舗目をオープンしたのですが、20年前から我が子のようにお店を育ててきたので、クルーさんたちは我が子みたいな感じなんですよね。なので、しっかりと育て上げたクルーさんたちが活躍しいく姿をたくさん見たいんです。
お店を辞めて、新しい仕事に挑戦したいというクルーさんも多いのですが、いつも話すのは「あなたの人生は自分で決めなさい」っていう。次行きたいなら行ってもいいし、引き止めない。その子が成長していく姿を見たいので。我が子のように成長したクルーさんたちが、お客さまに支持されているのを見ると、本当に嬉しい気持ちになりますね。
今後、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
ビジネスに必要と思って、2年程前にゴルフをはじめました。社員ともスポーツでもコミュニケーションがとれたらいいなと考えているので、組織内でゴルフ部を作りたいですね。現在、外国人社員にもゴルフを特訓中です(笑)。ネパールやベトナムではゴルフをする方が少ないらしく、練習動画をSNSにあげると母国の友だちにも驚かれるようですよ。また、お店のお客さまに彼らのコーチになった頂いたりもしています。普段見れない彼らの姿も見れて、そういう仕事外でのコミュニケーションも大切だなと実感しています。
留学学生というだけで世間から認められないこともあるのですが、本当に大事なクルーさんたちなので、ちゃんと認めてもらえる環境をつくっていきたいなと思います。そのためには、ちゃんとした接客を身につけて、マネジメントの力を身につけてもらって、というように一人一人のスキルを上げていくしかない。
今までは、一人一人のOJTに特化していたのですが、今後は、誰でもある一定のレベルまでスキルを高められるような教育体制を作ろうと思っています。外国人のクルーさんもしっかりと社会に認められて、社員として長く勤められるようなお店にしたいなと。
城戸さん、ありがとうございました。