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イミズスタンのローソンに並ぶハラール食品は、お客さまと向き合った品揃えの証

全国にあるローソンのオーナーさん・クルーさんに、マチの魅力とご自身との関わりをインタビューする企画「#マチのほっとステーションをつくるひと」。

第4回目は、富山県射水市(いみずし)の「ローソン新湊津幡江店」の店長、門嶋貴子(かどしまたかこ)さんにインタビュー。新湊津幡江店は、ハラール食品と呼ばれる商品を幅広く品揃える、全国でも珍しいローソン。その品揃えの実現の背景には、お客さま一人一人と向き合う門嶋さんの思いがありました。


チャレンジを試みるも、一度は挫折したハラール食品

本日は、よろしくお願いします。新湊津幡江店では、ローソンチェーンの中でも珍しい「ハラール食品」を扱う店舗として有名と伺いしましたが、まずはハラールについて教えていただけますでしょうか。

 ハラール食品は、イスラム教を信仰する「ムスリム」の方々が食べることを許された食べ物です。この場所でローソンを始めた直後に、若い世代のムスリムのお客様がカップラーメンのパッケージを見て、食べられないものが入っていないか、確認しながら買い物をされる姿があったんです。実際、その時に「これ豚肉入っている?」とか聞かれることもありました。正直なところ、それまではムスリムの方が食べられないものが色々とあることを知りませんでした。その後、インターネット等で調べてみると、豚肉の他にも、アルコール、豚由来のゼラチンや乳化剤など、食べてはいけないものが多いことが分かりました。ハラール食品とは、そういったものが使われていない食品のことです。

イスラム教のお客さまが多くいらっしゃるのですか?

 はい。店舗のあるこの周辺は、「イミズスタン」との愛称もあるほどパキスタン出身の方が多く住まれているんです。海外(ロシア)への中古車の輸出を手がける人が集まったのが始まりともいわれています。さらに、このお店は、すぐ近くにモスク(ムスリムの方が礼拝する寺院)があるので、礼拝のあとにお店に立ち寄ってくださるお客さまが多くいらっしゃいます。

 実はコンビニで取り扱っている商品は、ムスリムの人たちが口にすることが禁じられている、豚肉や豚由来の原料などを含む商品が多く、買えるものは限られているんです。成分表示を見ると、「これもダメ、あれもダメ」って。ベーカリーは乳化剤を使っているので全てダメでした。レトルト食品やカップラーメンも食べられません。「コンビニは私たちには便利だけど、ムスリムの人たちにはそうじゃない」と思いました。モスクにも近いので、ムスリムの方も気軽に立ち寄れるコンビニになればいいなと思い、ハラール食品の取扱いを検討し始めました。

そこで、すぐにハラール食品の取扱いを始められたのですか?そういう特別な商品を見つけられたのもすごいなと思って。

 いや、実は一度挫折しているのです。6年ほど前、「ムスリムの方も多くいらっしゃるので、こんなん(ハラールが)あったらいいじゃない?」ということを当時のスーパーバイザーに伝えたら、ぜひチャレンジしてみましょうって言っていただいて。実際、ハラール食品の仕入先を探してみたのですが、県内でみつけることができず、その時は断念しました。

でも、ハラール食品の夢は諦めきれなかったと。

 改めて取扱いしたいと思ったのは2年ほど前です。両親がパキスタン出身の学生がこの店のクルー(アルバイト)として入店してくれたのですが、その子もまた、食べられないものは入っていないか確認していました。毎週、新商品は発売されると、パッケージの栄養表示をじっくりと調べながら「店長、これは食べられるよ!」「これも食べられるし、これも食べられる!」と言って、目をキラキラさせながら言ってくる姿を見て、やっぱりやってみたいなと。カレー屋を営んでいるインド人の方にお聞きして、ハラール商品をとり扱っている取引先を見つけたのですが、いざ商品を扱ってみようと思ったら、取引が全部英語で「ダメだこりゃ」と(笑)。


ハラール食品で、選べるラインナップを作りたい

一度は難しいと挫折した商品の取扱いをどうやって実現したんですか?

 その後、インターネットで取引先を探していたところ、たまたまなのですが、東京・御徒町にハラール食品を販売しているお店があることがわかったんです。そこで、大学に通うことになって上京した娘に、「そのお店に行って商品をいくつか買って写真にとって送って」と頼んで、輸入元を調べてみました。そうしたら、その商品の輸入元がたまたま娘の家の近くにあったので、またすぐに娘に電話して「ここに行って、相談してきて」と。最初は嫌がっていていたのですが、オフィスに行ってもらいました。「いまから母さんの言うとおりに言うだけでいいから」と無理矢理に(笑)。

お電話とかではなく、突然会社に?

 行ってもらいました(笑)。電話していきなり英語とかだと話せなくなってしまうので……。それで、日本語を話せる方に「両親が富山でローソンやっているのですが、近くにモスクがあって、東京ではないのですがお取引きできますか?」と聞いたら、そこからトントン拍子に話が進んで。

最初は何商品くらい仕入れたのですか?

 クッキーとマンゴージュース、カレー何種類かと、世界で一番甘いグラブジャムン、スナック菓子とか。パキスタンにはカップ麺という文化がなかったらしく、カップ麺は当時は2種類だけですね。全部で20商品くらいを仕入れました。

文化のないカップラーメンも仕入れられたのは何か理由があるのですか?

 やっぱり、周りの日本人が食べているとおいしそうだし、食べてみたいってなると思うんです。だから、パキスタンの現地で売られている商品だけではなく、「コンビニらしい」ラインアップで、ムスリムの人たちにも食べられるものを揃えたいということで選びました。

なるほど。ムスリムの人にとっても便利なコンビニ、いうことですね。

 そうですね。射水にはハラール食品を扱うスーパーやお店もあり、そこでは、ご自宅で作る素材や原料などが販売されています。当店は、幹線道路沿いにあるので、車での行き帰りに立ち寄りで来店されるお客さまが多く、即食性の高い商品のニーズが高いです。ムスリムの方も、私たちと同じように気軽にコンビニ立ち寄って買える商品を、ハラールで品揃えできたらいいなと思いました。「ムスリムの人たちも使えるコンビニ」を目指したいなと思って。

先程、お店で冷凍食品も見つけたのですが、徐々に品揃えを広げられた形ですか?

 まずは日持ちする商品から始めて拡大していきました。クッキーやお菓子がすごく売れて、継続的に商品を展開していると、お客さまとも取引先さんとも頻繁にコミュニケーションが生まれて、例えば取引先様から「こんな新しい商品が入ってきたからいかがですか?」と定期的にお声がけいただくようになって、お客さまに「どう思う?」なんて聞きながらラインナップが増えてきた形です。当初はここまで広げる予定ではなかったのですが、気がついたら60品目近くまで増えていました。

門嶋さんおすすめの商品はありますか?

 今、一番おすすめしているのはパラタというナンみたいな薄焼きのパンですね。インドのナンみたいな感じの商品です。これはハラールのお弁当屋さんから「売ってみませんか?」と紹介されて、その時は全然知らなかったんですね。なので、1個サンプルとして送ってくださいと言って、送ってもらって食べたら、すごく美味しくて。

 これはムスリムのお客さまだけでなく、日本人のお客さまにも売れる!と思い、来るお客さまみなさんに「これ新しい商品なんですけど、めっちゃおいしかったですよ」と言っておすすめしています。


日本人のお客さまにも食べてもらいたい、門嶋さんが選ぶ商品選定の基準

日本人にも喜んでもらえるかも!というお話が出ましたが、ムスリムのお客さまが、客層の主ではないのですか?

 いえいえ、ムスリムのお客さまは一部で、やはり大半はこの地域にお住まいの日本人のお客さまです。なので、日本人のお客さまにおすすめできるかどうか、ということも商品選びの基準のひとつにしています。扱う商品はちゃんと試食して、おいしいと思ったものを品揃えしたいですね。

 お店独自で仕入れる商品なので、すべて自分たちで決めなければいけないですし、自信を持っておすすめするには、商品の美味しさ、良さは自分たちが理解していないといけないと思っています。

すごいこだわりですね。日本人のお客さまの反応はどのような感じなのですか?

 最初はこの辺りのパキスタンカレー同好会のネットワークの人たちから噂が広まり始めた感じでした。同好会の人たちが、どこからか情報を得てご来店されて。その後、何回か新聞で紹介いただいたりしたのですが、やはり取扱いを始めた頃は、ちょっと物珍しそうに見ているお客さまも多くいらっしゃいました。そういう時は、「こんな商品、取り扱い始めました、ぜひ一度食べてみてください」と積極的にお声がけしたり。

 そうすると「日本のカップ麺と味が違うけど、意外といけたよ」とか「日本のクッキーよりも手頃な値段だったんで、全部食べてみたよ」とか、徐々にお客さまの手に届くようになりました。

日本人のお客さまには、どのようにハラール食品をおすすめされているのでしょうか?

 味はほぼ日本のものと変わらないと思います。少し違うとすれば、クミンが多く使われているので、鼻に残るスパイスの香りが特長的です。あと、マンゴージュースは、日本人向けの商品よりもすごく甘いのが特長で、おいしいです。パキスタンの方は甘い商品、味の濃い商品が好きみたいで(笑)。
 
 より多くのお客様に商品の魅力を伝えるには、私一人ではできないので、クルーさんにも協力してもらっています。実際の商品を食べてもらい、その感想をお互いに伝えあったり、レジカウンターに設置した商品おすすめPOPを使ってお客様に説明できるようにしたりしています。

今後、チャレンジしたいことがあれば教えてください。

 ムスリムの方にとってもさらに便利な店を目指して、ハラール商品のカテゴリーやラインアップを今後も増やしていければと思っています。例えば、ハラールの揚げ物にも挑戦してみたいです。豚肉使用の商品など揚げたフライヤーでは作れないので、店舗設備の面で現状はなかなか難しいのですが、ハラールのお弁当も「夢みたいですが、いつかやってみたいです」と色々なところで話をしていたら実現することができたので、前向きに挑戦していきたいです。

門嶋さん、ありがとうございました。

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