交通事故|加害者が破産したとき
東京商工リサーチの調査では、2023年の企業倒産件数は8,690件で、2022年から35%も増加したようです。
また、裁判所での破産事件数は、2022年で70,602件と、高い水準で推移しています。
もし、交通事故の相手方が破産してしまった場合、被害者は補償を受けられるのでしょうか。
加害者が責任保険に加入している場合
直接請求権(任意保険・自賠責保険)による支払
自賠責保険については、被害者の保険会社に対する直接請求権が認められています(自賠法16条)。また任意自動車保険契約でも、約款上、直接請求権が認められています。
この自賠法16条の直接請求権も、任意自動車保険契約に基づく直接請求権も、被害者の加害者に対する損害賠償請求権とは別個独立の、被害者の保険会社に対する請求権であるとされており(最判昭57年1月19日判決)、これらは破産債権には当たりません。
そのため、加害者の破産の影響を受けることなく、破産手続外で保険会社に対して行使できます。
なお、任意自動車保険契約における直接請求権は、約款上、被保険者と損害賠償請求権者との間で①判決が確定した場合や裁判上の和解、調停が成立した場合、②裁判外で書面による合意が成立した場合、が要件とされています。
破産手続の場合は、破産管財人が調査において届出債権を認め、他の破産債権者が債権調査期間あるいは債権調査期日において異議を述べなかった場合、届出債権は届出どおりの内容で確定し、裁判所書記官による破産債権者表の記載は確定判決と同一の効力を有することになります(破産法124条)。
それ以降、被害者は直接請求権を行使することができることになります。
先取特権による支払
交通事故における自賠責やその他の任意保険、いわゆる責任保険契約によって支払われる保険金は、加害者の保険会社に対する請求権ですから、破産財団に帰属するのが原則です。しかし、それでは交通事故の被害者の救済は十分に図ることはできません。
そこで保険法22条1項は、被保険者の保険給付請求権に対する被害者の先取特権を認めています。
そのため、被害者は別除権者(破産法2条9項、10項)として破産手続によらないで保険給付請求権を行使する(同法65条1項)ことによって、責任保険金から優先弁済を受けることができます。
免責許可決定の影響は受けません。
加害者の免責許可決定があった場合、加害者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権、故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項2号、3号)以外の軽過失による事故の場合、加害者は損害賠償債務につき免責されることになります。
免責された債務の性質については、責任を免除されるにとどまり、いわゆる自然債務として存続すると解するのが通説であり、判例もこれを前提としています(最判平成9年2月25日判決、最判平成11年11月9日判決)。
したがって、被害者は、加害者に対して免責許可決定がなされても、直接請求権を失いません。
加害者の免責は、被害者の直接請求権の行使に影響を及ぼさないのです。
保険金では填補されない損害
例えば加害者が自賠責にのみ加入しており、自賠責保険金だけでは事故による損害が填補しきれない場合があります。
そのような場合は、破産手続の中で債権の満足を得なければなりません。
具体的には、損害賠償請求権の金額及び原因を裁判所に届け、配当があるのであれば配当により支払いを受けることになります。
保険が適用されない場合
交通事故の加害者が事故後に破産した場合、被害者の加害者に対する損害賠償請求権は、破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権に当たり、破産債権となります(破産法2条5項)。
したがって、被害者は破産手続によってその権利を行使し、他の破産債権者と平等に破産財団から配当を受けることになります。
そして、単なる交通事故による損害賠償請求権は非免責債権(破産法253条1項2号、3号)となっていないため、加害者に対する免責許可決定により損害賠償請求権を行使できなくなってしまいます。
もっとも、保険が適用されない理由が①加害者が自賠責保険に加入していない自動車で事故を起こした場合や、②自賠責保険は車両についていたが泥棒運転などで運行供用者責任が認められない場合は、政府保障事業による支払いを受けることができます。
まとめ
加害者が責任保険に加入している場合は、加害者が破産しても被害者は保険から支払を受けられます。
加害者が自賠責保険しか加入していない場合、自賠責保険ではてん補しきれない損害は、破産手続内で処理されます。配当がなければ支払いを受けられません。
加害者が責任保険に加入していない場合、加害者に対する免責許可決定により損害賠償請求権を行使できなくなってしまうのが原則です。
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