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罪を犯したらクビになる?

もし罪を犯してしまった場合、そのことが職場に知られてしまうのではないかとご不安になられる方も多いと思います。
刑事事件を起こしてしまった方と職場との関係について弁護士が解説いたします。


1 罪を犯したことは職場に知られてしまうのか?

 もし罪を犯してしまった場合、そのことが職場に知られてしまうのではないかとご不安になられる方も多いと思います。

⑴犯罪の発覚

 まず、罪を犯してしまった場合、被害者による被害申告(被害届の提出、告訴)や、目撃者による通報、現行犯逮捕、職務質問に伴う所持品の検査等、様々な契機で、そのことが捜査機関に明らかになりえます。
捜査機関は、罪を犯したことが疑われる場合、捜査を開始します。
この捜査の過程で、職場に連絡が行くのではないか不安だというご相談を受けることが多々あります。

⑵必ず職場に連絡するわけではない

 捜査機関は、必ず職場に連絡するわけではありません。
 捜査に伴う情報・資料の収集、確認は、あくまで、当該犯罪事実の存在や、被疑者の犯人性について、合理的疑いをいれない程度に確からしいといえるだけの証拠を収集する作業です。
犯罪と関連しないようなケースでは、被疑者の勤務先を把握したとしても、直ちに職場に連絡がいくわけではありません。

⑶どんなときに知られてしまう?

ア 捜査の必要がある場合

 逆に言えば、犯罪との関連が疑われるような場合には、捜査の必要から職場に連絡が行くことになります。
具体的には下記のケースが考えられます。

①職場での犯罪

 まず犯行現場が職場であるような場合には、職場への連絡や捜査機関の介入は避けられません。
例えば、職場から物を盗んでしまった、職場で盗撮をしてしまったというような場合です。
 この場合、被害者への聴取や、証拠保全の必要性から、警察は職場に連絡することになります。
 もっとも、このようなケースでは、そもそも職場から警察に通報がなされ犯罪が捜査機関に発覚したというようなケースが多いです。
 注意が必要なのは、未だ職場に発覚していないが、職場で罪を犯してしまったというような場合において、逮捕を避けるために自首をすることを検討しているというような場合です。
 この場合も、少なくとも被害者への聴取等の必要から、職場の一部に連絡がされることは避けがたいですが、影響を最小限にできるよう、事前に弁護士に相談をすることが望ましいです。

②被害者が同僚

 犯行場所は職場でなかったとしても、被害者が勤務先の同僚であるというような場合も、職場に連絡がいく可能性があります。
例えば、同僚とお酒を飲んでいて、カッとなって同僚を殴ってしまったというような場合や、同僚に対するストーカー行為として自宅に侵入したというような場合、同僚と遊んでいる際に同僚のお金を盗んでしまったというような場合が考えられます。
 この場合、犯罪に関連する事実が、被害者への聴取のみで明らかになるのであれば、必ずしも職場への連絡がされるわけではありません。
上記の内、殴ってしまったようなケースでは、職場に対し捜査をする必要性は低いといえます。
 一方で、上記のストーカーのケースや、同僚のお金を盗んでしまったというケースでは、今回の犯罪行為以外の行状の確認や、余罪の有無を捜査するために職場に連絡がいくようなことも考えられます。
 また、被害者が同僚であるケースでは、捜査機関が職場に連絡しなくとも、被害者自身が職場に相談や報告をすることもあります。
 これを避けるためには、被害者の方に対し、謝罪と賠償をする中で、しっかり口外禁止をお約束していただくといった対応が必要となり、弁護士による交渉が有用といえます。

③犯行と職業に関連性がある

 犯行場所は職場でなく、被害者も職場の人間ではないという場合でも、犯行内容と職業に関連性がある場合、余罪捜査のために職場に連絡がいくようなことがあります。
 例えば、塾の講師をしている方が、電車の中で、勤め先の生徒ではない学生に対し痴漢をしてしまったという場合、勤め先でも同様の被害に遭った生徒がいないかを確認するため、職場に連絡がいくことが考えられます。
 そのようなケースでは、弁護士から捜査機関に対し適切な説明をして、職場と犯行に関連性がないことを理解してもらう必要があります。

④在籍確認

 これらのケースにあたらない場合であっても、例えば捜査機関が、捜査のため被疑者本人に連絡をとっても対応がないような場合や、身元がはっきりしないようなケースでは、勤務先への在籍を確認し、身元を明らかにするために職場に連絡がいくということもあります。
 これを回避するために、罪を犯してしまった場合や、警察から連絡が来た場合には、弁護士に相談し、身柄引受人なども用意したうえで、自ら出頭したり、警察の捜査に協力することなどが必要になります。

イ 逮捕されてしまった場合

 罪を犯してしまった場合、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、逮捕をされてしまうこともあります。
逮捕されてしまった場合に、捜査機関から職場に対して、逮捕したことを報告するというようなことは考えづらいですが、身柄拘束のタイミングや期間によっては、欠勤を余儀なくされてしまいます。
 対策をとらなければ、無断欠勤が連続するということになり、心配した職場の方から捜索願が出されるなどして、職場に犯罪が知られてしまうということがあります。
 逮捕されてしまった場合には、すぐに弁護士を呼び、職場への対応を求める必要がありますが、この場合に、弁護士から直接職場に連絡すれば、いずれにせよ疑念を持たれることになってしまいます。
 そのため、ご家族などと連携し、犯罪の事実は伝えずに欠勤することを職場に連絡するなど、刑事事件対応の経験豊富な弁護士とよく相談する必要があります。

ウ 報道されてしまった場合

 事件の内容や重大性、被疑者の職業・立場によっては、犯罪事実が報道されてしまうこともあります。
特に、逮捕されてしまったような場合には、報道のリスクも大きくなります。
 報道による職場への犯罪発覚を避けるために、罪を犯してしまった場合、弁護士に相談し、逮捕回避や、報道回避のための対策をとることが必要になります。

エ 公務員の場合

 公務員の方については、犯罪事実が職場に発覚してしまうリスクが、私企業に努める方よりも、高くなります。
公務員は、国民全体の奉仕者であるという性質から、罪を犯した際に報道される可能性も高く、また、後述する欠格条項や、国家公務員法上の懲戒処分の定めとの関係から、捜査機関が職場に連絡することが多いためです。
 とはいえ、必ず報道や連絡をしなくてはならないという定めがあるわけではなく、これを回避する方策もあるという点は、私企業に勤める方と同様です。
 罪を犯してしまい、職場に知られないか不安だという場合には、まず弁護士に相談しましょう。

2 職場に知られたらクビになってしまうのか

⑴必ずしもクビになるわけではない

 職場に知られてしまった場合、勤務環境や人間関係等、少なからず影響が生じてしまうことは避けがたくはありますが、罪を犯した場合は必ずクビになってしまうというわけではありません。

⑵私企業の場合

 私企業の場合、従業員の解雇に関しては、会社の側に裁量があることは否めませんが、罪を犯してしまった従業員を、必ず解雇ができるというものではありません。
 多くの企業は、その就業規則に、業務への障害を生じた場合や、会社の名誉・信用を棄損した場合など、企業秩序を害する行為を行った場合に、懲戒処分ができることを定めています。行ってしまった犯罪が、職場での犯罪や、会社関係者を被害者とするものであれば、懲戒解雇という結論に至るこ   ともやむを得ないとも言えますが、会社の業務と関係のない私生活上の非行であれば、企業の秩序とは関係がないといえるケースも考えられます。
 この場合、行為の性質、状況、会社の事業内容の性質や規模、従業員の会社内での地位等、諸般の事情を総合考慮することが求められます。
犯罪の内容が軽微であり、また、処分も重大なものでなかった場合、会社業務と関係ないことを理解していただくことで、懲戒解雇を回避できるというケースもあります。

⑶公務員の場合

 公務員の場合、まず、罪を犯し、捜査の結果、起訴され、禁固以上の刑に処されてしまった場合には、欠格条項にあたってしまうため、職を失ってしまうことになります(国家公務員法76条、38条1号、地方公務員法16条1号)。
 よって、公務員の方の場合、起訴されないことを目指す必要があり、被害者の方がいる犯罪の場合には、被害者の方に謝罪と賠償をし、示談をしていただく必要があります。
 そのためには、弁護士による交渉が必要となってきます。
また、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合には、懲戒処分を科されることがあります(免職、停職、減給、戒告)。
 この懲戒処分については、不起訴処分となった場合でも、科されうるものですが、弁護士を通じて、早期に被害者の方に適切な賠償をし、不起訴処分を獲得することで、科される懲戒処分の程度を軽くすることも可能です。

3 クビなるのを避けるためには

⑴早期対応の必要

 以上のように、罪を犯してしまった場合、捜査や処分の過程で職場に知られてしまい、職を失うリスクがあることは否めませんが、ノウハウを有する弁護士に相談し、早期に対応することで、そもそも職場への発覚を回避することもできます。

⑵早期解決・アフターフォロー

 また、職場に発覚してしまったケースでも、謝罪や賠償等により早期に被害を回復し、不起訴処分を獲得することで、職を失うという事態を避けられることもあります。
 一般に、被害者の方がいる犯罪では、被害者感情に鑑みて、代理人弁護士を通じてでなければ謝罪や賠償自体できないということも多く、また、示談をしたことを明確に検察官に示し、不起訴処分を獲得することや、不起訴処分となったことを職場に示すための不起訴処分告知書を取得するといった対応には、弁護士によるサポートが必要といえるでしょう。

⑶弁護士に相談を

 このように、犯罪の職場への発覚やこれによる失職の回避には、早期対応が必要ですが、まだ捜査機関にも職場にも発覚していないケースや、逮捕されてしまっているケースなど、個々の事案により、必要な対応も変わってきます。
 まずは、刑事弁護対応経験の豊富な弁護士に相談し、適切な対応を検討しましょう。


 執筆者:渋谷支部長 枝窪弁護士(東京弁護士会)


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