新しい出会いのこと〜肩を張らずにフランス122
60年生きてきて友達と呼べる友達はなかった。
26歳でフランスに渡った。2年ちょっと働いたとはいえまだまだ学生気分が抜けきっていなかった。だから「友達」と呼べるのは学生時代に親しかったかそれ以前の連中だ。
日本にいる間は持ち前の内向的な性格から付き合いの幅が広がらなかった。深く付き合える関係にならなかった。
フランスに来たあとはもっと酷い。辿々しい喋りでは知り合いにはなれてもそれ以上になるわけがない(このフェノメンがあるからホームシックにもなるし周りからも孤立してしまう。何も自分に限ったことではない)。
親しさに差があるとはいえ「友達」と呼べる友達がいないと言ったのはそういう背景があった。旧友にしてもせいぜい年に一回会えればいい高校か大学の同期だし。いや、彼らと親しくなかったわけではない。ただどこか型にハマった窮屈さを感じる。仮に今、オフ会みたいな場で初めて会ったとしても多分それほどの親近感は抱かなかっただろう。
まさにこのオフ会だった。
イベント絡みでネットで知り合った彼ら。正直、趣味が共通なだけで「なんぼのもんやろう?」と疑心暗鬼ではあった。ところが
「こんなオモロい関係があったんか?!」
話が合うという感覚はこんなんなんだと驚いた。漫画でよくあるシチュエーション。現実にあるとは思わなかった。
初めてのオフ会。ドキドキしながら待ち合わせ場所で「どんな奴だろう?」と半分身を隠しながらキョロキョロ周りを見回す。
キタッ!
「どうもどうも。●●です」
「●●です。初めまして」
「そんじゃ行きましょうか」
……漫画ですよ。何やってんの?
飲み屋に入り席につき、お疲れ様とか挨拶の舌も乾かないうちに共通の話題でテンションが上がる。
『なんだなんだ?わぁわぁ?ちょっと待った!なんやこれ?楽しすぎ!』
ハイテンションが最初から最後まで。何を言っても通じるし何を言われてもすぐ分かる。ツーカーの関係。スポンジを相手に喋っているみたい。初対面でこれはすごい!再度で申し訳ないが漫画であまりによく見かけるシチュエーションなので鼻で笑っていた部分があった。現実はフィクションの何倍も強烈だった。涙を抑えるのに必死だったと言っても誇張ではないだろう。
二晩続けでやった。話題に尽きることはなかった。体裁を繕うこともない。新鮮だった。またやりたいと心から思った。
「オフ会をやりたい」と言うと矛盾ができる。というのもネットの繋がりがあるからこそ会おうと決め、オフ会が成立するものだから。本人が見えないのがデフォルトだからスタンドアローンではあり得ない。
これからしばらくは本来の関係に戻るだけ。なにしろ距離もある。オフ会をやるのが年に一回ならそれはそれで丁度いいのかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?