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ル・トゥケの海岸~夢で見た地へ~#2

"ー白いさらさらの砂に、横向きに緑色の草が生えていて、海岸は丘陵になっていて、少しどんよりした海が見える浜辺ー"

昔夢の中で見た記憶だけを頼りに、探し当てた地へ一人旅をした記録を残すことに決めました。

■ル・トゥケの海岸 ~夢で見た地へ~#1 はこちら

Instagramで見つけたその地は、私自身がいつも心惹かれるフランスにあった。
ル・トゥケ・パリ・プラージュという、パリから長距離電車で2時間ほど北西の地。
夏にはバカンスで多くの家族連れが集まる、割と安全な場所。
という情報だけを携えて向かった。

コロナ禍が明けて、4年ぶりの海外旅行に胸を弾ませる。
今回の旅はパリを拠点にし、滞在中に2泊3日でル・トゥケに出かけることにした。
何年も思い描いていた地だけれど、パリより寒い海岸に一週間いることはあまり考えず、逆にその2泊3日だからこそ感じるものがあるんだ、と目に見えない確信をもって旅の準備をしていた。

以前、パリからアムステルダムへTGVで移動したときのことを思い出し、
サンドイッチとコーヒーを買って、移動をのんびり過ごす予定だったのに…

年金改革のデモが始まったパリは日に日にデモの規模が大きくなっていた。
それゆえに、「夢の地」へ行くことしか考えておらず、パリの状況をあまり考えずに出かけた私のこの旅は、数々のドラマにあふれていた。

ル・トゥケに行くまでのパリでの1日目は、パレロワイヤル付近で友人とディナーをした帰り道、歩いてホテルに戻ろうとしたら突然、目の前から何十台ものパトカーがやってきて、何十人もの警察官が盾とテーザーガン(かな?)を持って並び出した。
四方囲まれ足止めになってしまった私は「え、テロ?何?」とパニック気味で、周りにいた若者たちに「What's happening here?」と聞くものの、フランス語じゃないし回答はない。
すると、さっきまで傍観していた若者たちがいきなり大声を出し始め、こぶしを上に振り上げ始めた。
これが目の前で「デモ」を体感した初めての経験。
旅の初日で、目的も果たせずに何かが起こるのは嫌だからと、一緒にいたパリ近郊在住の友達にお願いして、早々とメトロで帰ることに。
(お互い別々のメトロ)
ホテルに戻っても夜中12時までパトカーや叫び声が後を絶たなかったけど、夜にはしっかり止むのがこちらの人なのかな?💦
なんて思った。

滞在2日目、いよいよLe Touque(ル・トゥケ)へ。
前夜に電車をSNCFのサイトで確認すると、数日前まで10本ぐらいあった電車がたったの3本に減っていた。ストのせいだった。
ストが起こっていることは聞いていたけど、これがどういう意味なのか、その時の私にはまだわからなかった。

お昼過ぎの電車の発車時刻に間に合うように駅について、サンドイッチとコーヒーと、旅行鞄を抱えてホームに行った私が見た光景は予想だにしていなかったのだ。

Paris du Nordの駅の17番線に止まっている私の乗る予定の13:29発の電車は、なんと3両しか連結されてなく、そこにはごった返す人がぎゅうぎゅう詰めのまま出発を待っていた。
「フランスでは混雑時も日本ほどの密度ではない」と思っていた私には衝撃のおしくらまんじゅう状態&フランスらしく自転車や犬も一緒にぎゅうぎゅう詰め(笑)

10両ぐらいの長い電車が普通じゃないの?
と思いながら、自分の荷物を考えるとこれ以上電車に押し入る希望も勇気もなかった。

近くにいたSNCFのスタッフに確認すると、そこにいた英語が喋れる若い男性が、
「ストのせいだよ。これには乗れないけど、16:30にもう一台迎えに来るから、それに乗って。それを逃したら今日はもう電車はないよ」とのこと。

ただでさえ慣れないパリの北駅の構内。
どこのホームに迎えに来るの?と思ってると、「ここに来るよ」とのこと。
でも、ここはフランス、絶対同じホームなわけはいだろう…‼
と半信半疑。できる限りの情報をくみ取ることに必死になった。

次の電車の情報は掲示板のずっと下の方に「ホームはまだ未定」と出てるのみ。
そこで私が乗る電車は「カレー」行きで、それが16:30であるという情報を見守るしかないことを知る。
先が長いからと、綺麗に管理された北駅の有料お手洗い(1ユーロの価値あり)に行って、半分以上残ってたコーヒーを処分した。
もう頭の中がいっぱいで、PAULで買ったサンドイッチを食べる気力もなく、食欲も失せていた。

掲示板の前は、出発直前の電車を待つ群れでごった返したり、人気がなくなったりを繰り返す。
次の電車を待っている人もちらほらいるけど、大半は皆途中で諦めてどこかにいなくなってしまった。

私ときたら、こんな日に限ってヒールのあるブーツなので、すでに足が疲れている。
地べたに荷物を置いて少し腰掛けたり、ちょこちょこ移動しながらも
「次の電車を逃したらあの海岸に行けない」
「せっかくの旅だから行っておいでと、後押ししてプレゼントしてもらった宿にもたどり着けない、パリに残るのは嫌だ」と
ただ行きたい執心だけでその場に3時間居座った。

大げさだけど、“死ぬこと以外かすり傷”という名言に心救われたりして…

掲示板とにらめっこし、行きかう人々を見ていると、
「電車は少なかれ動いている」と理解でき、少しずつ頭が冷静になっていった。

滞在予定のホテルに電話し、英語交じりまくりのフランス語で到着が遅れることを伝えた。23時までに来れば大丈夫だよ、と言われて安心した。

事態を徐々に収拾し始めたからか、漸く空腹を感じ、サンドイッチと一緒に買ったパン・オ・ショコラを口にほおばる。
ここが駅の構内の、掲示板の前だということは、もうどうでもよくなっていた。
だいぶしなしなになってしまったけど、一口、二口と食べるにつれて、甘みが胃と心を癒し、少し元気が戻ってきた。

友人や、パートナーと連絡を取り続け気力を保つこと3時間弱。

ようやく掲示板のカレー行きの電車のホームを知らせるアナウンスが出た。

やはり同じホームなわけはなく、8番線。
急いで重い荷物を抱え、ホームへ急ぐ何人もを追い抜き、どうにか電車に乗り込もうと必死だった。

今回は3両より長い電車が来てたけれど、すでに満員。何が何でもと奥に入りなんとかスペース確保!!!
だけどすでに足は痛いし、座席に空きはなく、周りの人たちはみな電車の地べたに座っている。
カーペットだし、割と新しそうだけど、座るのは気が引けて立っていた。

出発前のアナウンスは全部フランス語で、そのたびにフランス人たちは大きな声を上げてリアクションする。
”一体何と言ったの?ちゃんと動くよね?!”
また内心冷や冷やしだしてしまう。

しばらくして、周りにいた人に、この旅で最も使ったフレーズ、
”Parlez-vous anglais?"と聞いて、”Oui”と言ってくださった方に
アナウンスはなんといってましたか?この電車は私の目的地に向かいますか?
と必死に尋ねた。
「今日はラッキーな日ではないわねって言ってたのよ。でもこれに乗ってれば着くわよ」と。
一安心をした私は、周りの人たちと同じように、電車の床に腰をおろした。

そうして漸く、2時間の電車旅が始まったのだ。

Paris Gare du Nord駅の電車の掲示板
夢の地への入り口

#LeTouqueParisPlage  
#ルトゥケパリプラージュ

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