誰だって褒められたい
「上司にね、良い声ですねって言ってみたの。」
「ほんとなの。」
「ほんと。落ち着いた穏やかな声。声だけなら一種のセラピー。でもね、メールのやり取りだとずるく立ち回ったり意思疎通が難しいというかわざと論点をずらして答えたりされるのよ。」
「じゃあ電話でやり取りしたら良いんじゃない。」
「それだとエビデンスが残らないから。そもそもコミュニケーションを取るのはやっぱり残しておきたい何かがあるからでしょ。メールなら遡れるから。それにね、唐突に電話掛けてくることが結構あって、ちょっとこれ以上は避けたいのよね。」
「声を褒めたらますます電話が来るんじゃない。」
「そうかもしれないけど、なるべくすぐ出ないで掛け直すとか、メールで返事しますとか言って乗り切ろうと思う。」
「まあ誰だって褒められたら嬉しいもんね。」
「そうでしょう。誰か私のことも褒めてくれないかしら。」
「英語のレッスンとか褒められるんじゃないの。」
「褒めてくれるけど、今日なんかその何倍も言い回しを直されたよ。典型的なブリティッシュイングリッシュに。書き言葉ならともかくも会話では何十年英語やっても絶対出てこないと思うような洗練されまくった文章。玉砕でした。」
「覚えればいいんじゃない。」
「いやあ、イギリスのいいとこの子っぽい人達コミュニティで育たないと厳しそう。元からほとんどない自信が完全に無くなっちゃうよね。」
「褒められたんだから良かったと思いなよ。」
「そうだね。それを忘れないでおこう思います。」
「褒められたかったら褒めることから始めないとね。」
「いつも的確なアドバイスをくれるよね。ありがとう。」
「そうそうその感じ。やっぱり嬉しいね。」
End
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