夏休みももう終わり

非日常をすごしていると日記が書けなくなることがわかった。毎年すくなくとも一回は訪れるようにしている馴染みの海で、友人たちといっしょに沖に見えるブイまで泳ぐ。潮の満ち引きにもよるが150メートルから200メートルていどの距離だ。25メートルプールを4往復したらすむ距離だが、沖に向かって足がつかなくなるところまで泳いでいくのは、何百回繰り返してもすこしこわい。泳ぐのをやめたら沈むんだな、と思いながら泳いでいる。ブイが手に届くと安心する。水の中をのぞくと、ブイを海底に繋ぐ縄には真っ黒く藻が生えていて、そこに栄養を求める熱帯魚がひらひらと泳いでいるのが見える。高校生の頃には泳げば流れてくる海藻が手にひっかかり、中に潜む変な虫にチクチク刺されるのが嫌で嫌でしかたなかったが、いまは温暖化の影響らしく海藻も生えず、海底はまっさらな砂だ。なんならサンゴ棚が発生していて、だからこんな海でも縞々や水色のからだをした熱帯魚が見られるようになった。今年は台風が過ぎたあとだったので、遠くから運ばれてきた海藻が波打ち際にたくさん打ち上げられているのをひさしぶりに見た。カツオみたいな魚も、傷だらけの死骸となって何匹も打ち上げられていた。

台風が去って2日後の海はおだやかに戻っていて、ブイのそばで力を抜きあおむけに体を浮かべれば、ほんのしずかな波の音だけが聞こえる。青い空に、飛行機がからだを煌めかせながら横切っていくのが見える。

ここまでいくと、わたしの脳の過活動もさすがに止まる。

だけどそのままでいるとどこまでも流されていくので、この時間は1分ももたない。からだを起こして、ブイからどのくらい離れていたのかを確認してちょっと苦笑いして、立ち泳ぎでからだを支えながら友人ととりとめもない話をする。浜まで帰る体力に不安が生じるまでおしゃべりをして、名残惜しげにまたぷかぷか浮いたりしてから、じゃあ、戻ろうかと誰からともなく言って、また浜に泳いで戻る。夏休みももう終わり、とフリッパーズギターの小山田くんのことばをちょっとつぶやく。

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