江戸っ子らしい威勢のよさで話しかけてくるご隠居

神楽坂まつりで毎年、ほおずき売りのボランティアをしている。ほおずきを求めてお客さんが大挙して訪れ、飛ぶように売れる。それがなんかテンション上がるので、浴衣を着て汗だくになり顔をテカテカに光らせながら売る。

売り子は男女ともに浴衣を着るのがルールなので、路地裏にある公民館みたいなところに集まって着付けをしてもらう。着付けは神楽坂の呉服屋のご隠居が差配してくださっており、挨拶すると「おっ!おぼえてるよアンタ去年もいたね!?」と江戸っ子らしい威勢のよさで話しかけてくる。このかたがとにかく褒めがすごくて、浴衣の柄がいいね、帯がいいね、帯締めの締めかたがすばらしいね、下駄もいいやつ履いてるね、足の爪の色も浴衣に合わせててかっこいいね、秋になったら紬の縞にあえて名古屋帯が粋だよ、アンタ艶っぽいからね。さすが神楽坂の呉服屋、この勢いで売りまくっていただろうな、これぞ商人魂、と感心する。褒められると嬉しいよね。みんなもっとわたしを褒めろ。わたしじゃなくてもいいよ好きなひとを褒めろ。

すっかり粋な感じで浴衣を着せてもらって毘沙門天に赴き、2024年ほおずき売り開始。去年までのイカれた人出は落ち着いていて、流れる汗を拭くくらいのゆとりはあった。サッカー部の高校生が何人か手伝いに来ていたのだが、途中でふらりと野球部の男子がやってきて、近隣に住んでいるのかと聞くとちがうと言う。あ、なんか近くまできたんで、と言ってて、なんとなくそわそわしてるなと思っていたら浴衣を着たサッカー部のマネージャー女子ひとりの周りをうろうろし、おずおずと話しかけ、そのうち嬉々として話し出し、気づくといつのまにか売り場に入ってきてマネージャーの隣に陣取ってウキウキとしている。わたしはそっと売り場の外側にまわり、なんだこれ野球部、マネージャーのことだいすきじゃん、と何食わぬ顔で様子を盗み見ながらほおずきを売り続けた。

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