見出し画像

ねこに翻弄される

今日はよく晴れているがコインランドリーに来ている。

家にいるとき、わたしはいつも落ち着かない。散らかっていて居心地の良さとはほど遠い状態にあるというのも原因のひとつだろう。目に入る情報量が多すぎるとひとは疲れる。でもそれ以上に、家にいると自分の思念がぐるぐる同じところを回り続けてしまって抜け出せなくなるのが難儀なのだ。

衣類の洗濯と乾燥という機能だけで構成された、この上なくシンプルな空間。ここに来ると、ざわついた心が凪にちかづくのがはっきりとわかる。わたしはコインランドリーが好きだ。

ところでなぜ晴れているのにコインランドリーに来ているのかというと、いっしょに暮らしているねこが羽毛布団をトイレにするからだ。3頭いるうちのキジ白の女の子は、羽毛布団を見るとなぜかもよおしてしまうらしい。ネットで検索してみると、そういうねこはうち以外でもいるらしいので、習性ならばしかたないとも思う。でも必ずひとが見てないときにするのでなんらかの作為も感じる。

もちろん不在時にはねこが入れないように寝室のドアを閉めて出かけるのだが、ついうっかり閉め忘れてしまうと、確実にやられている。帰宅して異常に気づき「NOーーーーーーー!!!」と叫ぶ。この冬8回目だ。ペットの汚れも受け入れてくれる布団クリーニング店に出すのだが、出費がかさんでつらくなってきたので、もうやけっぱちで自宅で洗い、コインランドリーで乾燥させることにした。水洗い×マークなんてくそくらえだ。

それにしても、どうしてわたしはいつも同じ失敗を繰り返すのだろう。仕事では、さもこの道のプロでございという顔をして、次々と新しいテーマで情報収集をして最適な資料をつくりあげることができるのに。週に一度は寝室のドアを閉め忘れ、家庭料理の味つけの配合はおぼえられず、小銭をつくるために使うコインランドリーの前の2台の自販機はどっちが100円玉だけでお釣りが返ってくるのかおぼえられず毎回500円玉が混じってて2回買うはめになる。毎日の生活をうつくしく営めるひとが羨ましい。

そうこうしているうちに、水浸しにされてぺしゃんこだった羽毛布団は、コインランドリーの強力な乾燥機能によって少しずつふんわりしてきた。意外となんとかなりそう。少し勇気が湧いてくる。ぐるぐる回る布団を眺めていたら、唐突に思い出した。3頭いるねこのうち茶白の男子は、ドア開け技をもっていることを。

古くてたてつけの悪いわが家のドアは、ぴったり閉めたつもりでもドアノブの「かちゃり」となる部分がうまくはまっていないときがあり、そうなると茶白はあの丸い前脚で器用にドアをひっかけて開け放ってしまうのだ。茶白男子に続いていそいそとキジ白女子が部屋に入り込んでくるさまが目に浮かぶ。そうだ犯人はあいつだ。わたしの失敗じゃなかった。自責感情がまた少しやわらぐ。

もう少しで布団は完全に乾きそうだがあとひと息だ。小銭が足りないから自販機で崩すことにする。100円玉が9枚出てきた。おかしい。このあいだこっちの自販機はぜったいに500円玉が混じっていたのに!!

ここに来てやっと気づいた。こいつ、中の小銭の所蔵量によって500円玉で返すか100円玉で返すか臨機応変に対応してやがる。わたしがおぼえられないんじゃなくて自販機が気まぐれなだけだった。自販機よりも融通のきかないわたし。

そんなわけで、今日は日常の困難ふたつが自分のせいじゃないことを確認した。かといって問題はなにも解決していなくて、ねことの攻防はこれからも続く。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?