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実際よりも少し先にいたようです。

時計の針は、もっと重いものだと思っていた。
その時、そのタイミングだけ進むことが許されていて、それ以外は何かを壊してしまうほどの力が必要なんだと。時計に歯車が使われていることは知っていたから、その歯車たちが軋むほどに尋常じゃないパワーとなにか壊れてはいけないようなものが壊れてしまっても構わないという覚悟のような思いとで、放っておいても一秒後に進む未来を無理矢理こじ開けなければ持ち上がらないものなのだと錯覚していたらしい。

クッカカカッ。
聞き慣れない音。軽い。
音のする方に、その正体を探すように目を流すと、時計の針が小刻みに震えながら自分を持ち上げている音だった。
そこに目線が落ちたときには、スッとすまして止まる時計の針。
なにも無かったと、いま起きたことが悟られてはいけないような顔をして何時も通りの時計の針を演じている。6時19分を指している。

電波時計が時間の帳尻を合わせているのをはじめて見た。なんてことのない、定期的に行われていることなのだろうが、少しワクワクしていた。
いま、遅れてた分を進めていたよな?
それとも、戻したのか?
進めたのなら一日の数秒間、損をしたのかな。でも、ずっと時計を見ていた訳じゃないから、損をしたとも思えないな。しかも損をしたとしても、世の中の時間が一気に進んだのなら全員が損をして、全員が損をしていないことになるのか。
身近な非日常感を味わい興奮する自分が、なにかを損したなんて到底思えなかった。
最近流行りの倍速再生で動くところを想像する。

新しく電池を入れた時計が、自動でぐるぐる時間を合わせるのは見たことがある。なんなら手動で、指でつまんで時間なんか操れるから。
世界も、ぼくも。

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