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ポエム・エッセイ

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ポエムのまとめです。わたしの頭の中は、こんな感じです。
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#思い出

空模様

空が包んでいるのか、空と一緒に浮かんでいるのか分からないけど、勝手に僕らはその中にいる。 そして、好きなうたを歌って、美味しいものを食べて、誰かを好きになった。 その日の空はとびきり良くて、自分とセットで一日が造られる気さえするんだ。 でも空はいつでも、誰かにとってはとびきり良くて、もっとも悪くて。 勝手に僕らはその中にいる。 雲が動いて、僕らが動いて。 誰かの空を、今は見てる。

季節外れの焼き芋探して

 思い入れの無い街に、想い出がある。厄介なことに、楽しい想い出だ。  学生時代にあんなに勉強したこと(それほど勤勉ではないが)は使わない物からどんどん忘れていく。国語辞典みたいな薄い紙の分厚い本の中に隠れてしまって、もうどのページにあるのか探す気にもならないことだらけだ。  一方の想い出の方はというと、そんなことはなく何十年も跨ってさえいない自転車に乗れるから不思議である。気になるのは、自分の身体のサイズと重さ、あとは可動しなくなった関節に戸惑ってしまうということくらいだ。

許されるなら、なみなみと

 湯呑みが、必ずしも適量のお茶で満たされるわけではない。7割か、多くても8割入れたところで一杯とするのが普通だろう。    鞄はどうだろう。  なぜか、たくさん入れたくなる。入れたまま出さないかもしれないノートや持っていると安心するお気に入りの文庫本。着替えのTシャツ、靴下。もしもの時の絆創膏。なんでもかんでも入れて安心する。  写真も似ている。  画面いっぱいに記憶を書き込む道具。端っこの角のところまで、しっかり思い出が入る様にシャッターを押して。  それをスマホにいっぱ

バス停

「待っててね」ってキミは 一緒に帰ろうと誘ってくれたのに あなたの望みを想像しなかったボクは ひとつ離して 椅子に座る 並んで歩く この道の 短い時間は好きなのに バイバイしか言えなかった キミの家があるバス停までは ボクのより ひとつ先なのに 夜を埋め尽くすのは星じゃないって知っていたのに それでも 夜空ばかり見てる 今日で最後の帰り道 じんわりと仲良くなんてならないと分かっていたのに きちんとボクの世界で一番を決めるべきだったのに ひとつ離して 椅子に座る

飛んでった先にある世界

 過去に戻る原動力が思い出なら、タイムスリップが成功したのに元の世界に帰って来る人なんていないだろう。  曇り空は斑に濃淡のある薄い青で覆われている。その障子戸の和紙みたいな空に、誰かが悪戯して指を突っ込んだみたいな穴がひとつ空いていた。雲の上の明るい光がその穴から漏れ出し、偽物の太陽の顔をして日輪を纏っている。その光景は光が漏れ出しているはずなのに、今日の分の光を地上から全部吸い上げているようだった。  鳥がいない。裸の街路樹だけが、だらしなく枝を曲げている。  友人が空

冬のつもりが、いつの間にか。

白い雪が降りてくる空は、取り残された薄紫色に覆われている。まだまだ冬が、冬ですよと主張してくる。 こんな時期に豆をぶつけられる鬼の気持ちを察すると、居たたまれない。 だから、あんなに血色の悪い真っ青だったり、霜焼けで痒そうな全身真っ赤なんだろうか。素足で上着も着ないで家の外に追い出すなんて、誰が考えたのか。急に現れた、恵方巻という謎の文化が随分と平和的に思える。 子供の頃は、節分にはピーナツとチョコを実家に撒いていた。でも、鬼のお面は自分で被りたかったから、お面を着けたまま

思い出は微かに温かい。それさえ覚えていればいい。

バラバラと記憶が落ちて、水になった。 地面に落ちた水は乾いてしまって、もうどこに行ったか分からないようだ。 雨が降るから、悲しい気持ちも誰のものか分からなくなってしまった。 だから、何となくみんな雨降りが嫌だ。 運良く野良ネコが舐めた雨水があなたのものだったのなら、寂しそうに鳴いている理由が分かるかもしれない。 運悪く野良イヌに降り注いだ雨水があなたのものだったのなら、晴れた草原まで走って行って乾かしてしまうかもしれない。 今日はすこし変わった日にしよう。 外は寒くなって

#推し短歌 鬼ごっこ

小さい頃は学校の休み時間でも放課後でも、なぜだか暇さえあれば「鬼ごっこ」をしていた気がする。 鬼渡し 帳の中で駆けて跳ね 弱きも強きも 無病息災 誰が決めたわけでもなく、その時々で一定の範囲で追いかけ廻っていた。 鬼ごっこのときは、運動が得意なヤツも足が遅いヤツもあまり気にしないで遊んでいた気がする。鬼ごっこもいろんな種類があるから、鬼の数を増やしたりして。 転んで膝から血が出ても帰りたくなくて我慢して、何をあんなに毎日やっていたのか。でも、楽しかったな。そんなイメージで

ごめん、最高の相棒がいるから。

朝、フライパンでパスタを茹でる。 いつの間にか何でも省略して、これも解釈としては新しいアイディア。 技術とは呼びたくないから、アイディア。 フライパンで作るのは、ペペロンチーノ。 輪切りの唐辛子が赤と、それから焦げて変色しているからヴァレンタインの色に見える。 「男同士の週末は、最高だな」と、笑いあったのを急に思い出した。 わたしが人生で一度だけ、相談のつもりで宣言したのはあの人だけだから、余程信頼していたと自分でも驚いた。 同棲中の彼女をほったらかして見に行く映画館でも