本社乗っ取り計画〜信用はビジネスの礎

東田のスパイ依頼の件を経て、僕は大迫の壮大な計画を目の当たりにすることになった。

コンサル業を営む本社は同族経営で、親族しか役員には入っていない。しかし、60越えの夫妻と社会経験やビジネスセンスがあるとは言えない若造しかいない状況のため、東田には経営面で貢献性や将来性のある者を1人役員に加えたい、という意向が以前からあった。
大迫には少し前から水面下で相談を受けていたのだが、現在のビジネスで充分潤っている大迫の目からすると、受けるメリットがあまりないと映ったのか返答をしかねていた所であった。

大迫は東田がいつか自身を裏切ると踏んでいたのだろう。対応を迷っていた所に今回の話が舞い込んできた事で、密かに温めていた企画を実行に移す決心がついたようだ。
「ビジネスで信用は一番大事だ」

「俺はその信用を平気で覆す輩は駆逐する」
「東田の事は決して許さない」
大迫が大事にする考えがよく分かる言葉だ。

東田は元々自分のためなら梯子を平気で外したり、お世話になった人からのビジネスアイデアをパクる(拝借する)事が多々あった。
ただ、それぐらいこ図太さや太々しさがなければ、ビジネスの世界で長く経営者として生き残っていくのは難しいのだろう。
ただ、前提にある"信用"や"恩"などを疎かにすると、どこかでシッペ返しを喰らう…それはそれで当然だろう。(自分がその役割を担うかは別としてー)
計画を端的に言えば、経営陣に入り込みながら自身でも本社事業と同業種の事業を展開し、売上が本社を超える見込みが立った時点で取締役に名を連ねる連中に退職金を掴ませ、本社を奪い取る、という流れだ。

「俺のやり方で本社の業績を上げていく事はできる。だが、それだと親族達に金が流れるだけで、虐げられている連中には見返りがない。のうのうとしてる家族共に1000万位掴ませて追い出して、残る社員の給料を一律5万上げてやる方が余程社会貢献だろ。」

手元の飲み物を一口飲むと、大迫は熱気を帯び、やや顔を赤らめたまま続けた。
「本社を乗っ取って表の仕事を拡大する事にする。タク、お前が鍵になるぞ」
表、とは大迫が人前で話せるためのカタギの仕事のことだ。

僕は非常に大きな緊張感に包まれたと同時に、世話になった会社に対する背徳感とワクワクするような相反する感覚を同時に「」」覚えた。
「東田さんに対しては引き続きスパイの振りをしておけ。現場の連中の信頼や信用を得ておく必要がある。俺は俺で経営陣に入り込んで下から。」

そこまで続けると、大迫は時計を見やり、荷物をまとめ始めた。

大事なアポイントがあるから、ついて来い。続きは後だー

大迫はそう言って僕の準備も待たずに出て行った。
いつもの大迫だ。
僕はそう感じ、後を追って行った。

大迫のレクサスに乗せられ、向かったのは東京駅近くの高級ホテルだった。車を地下駐車場に停め、エレベーターからロビーに向かう道すがらで大迫が説明をしてくれた。

「今日会うのはかなりの大物だ。西日本でもトップクラスの建設会社の社長だ。お前は俺の秘書としていろ、特に喋る必要はない。」
"かなりの大物"の定義がよく分からずピンと来なかったが、何気なく大迫が呟いた社名を聞いた瞬間、凄まじい緊張感を覚えた。

誰もが知る大手の社長、そんな人に会えるのか、いや、自分なんぞが会って良いのだろうか…大迫とロビーの片隅で並ぶように立ち、そんな事を1人ごちっていると、30代半ばと思しき、ほっそりしたスーツの男性がちかづいてきた。
「どうも、こんにちは。」
控えめながら、どこかに明るさを潜ませた挨拶をしてきたら男が、その"西の大物だった"ー
続く

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