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M-1グランプリ2022終了。審査員分析から見えるものと、大会の総括


今年もM-1グランプリが無事に終わったこと、これで安心して年末を過ごせるなという気持ちになりますね。
2022年の優勝はウエストランド。時代に逆行したとの言える漫才で下馬評を覆しました。
私は井口さんがネタ中に言っていた「お笑いを分析」するのが好きな人間です。それでいてあのネタをライブで見て大爆笑している人間でもあります。
なぜ分析するかと言うと、「なぜこのネタは面白いのか」というのを知りたいからです。決して素人が偉そうに論評して扱き下ろそうというわけではないです。どうしても優劣はついてしまいますが、あくまでM-1の一視聴者としての感想を述べられればという思いです。
毎年大会の総括を別のSNSで書いていましたが、今年からはnoteで記していこうと思います。そして今回は入れ替わりが大きな話題となった審査員の分析と大会全体の流れを主軸に書いていきます。
※画像は個人的に毎年作っているM-1グランプリの馬柱。競馬ファンには伝わるはず

【山田邦子】
最高:真空ジェシカ 95点 最低:カベポスター 84点
平均:89.3点 得点差11点
今年が初審査員となる東の女性レジェンド芸人。しかし最初のカベポスターに84点、続く真空ジェシカに95点をつけたことでTwitterでの議論は紛糾。それでも終わってみればその二組が最低と最高で得点差も11点をつけて独自の価値観に基づいた点数を最後までつけきったとも思います。実際最終決戦に進んだ3組を2~4位にしていますし、山田邦子の点数を差し引いても2,3位が入れ替わるだけで影響はありませんでした。問題は審査コメントですかね。点数とコメントがかみ合ってない部分が多くあり、ここは来年以降の改善点ですかね。

【博多大吉】
最高:さや香 96点 最低:キュウ、ダイヤモンド 90点
平均:92.2点 得点差6点
大会終了後は概ね好評だった大吉先生の審査。しかし個人的には疑問です。1位と10位の差が6点と全体でも最小でした。これでは審査員として機能していません。逆に審査コメントは悪い点をはっきりと言い、ネタ時間についてもちゃんと言及しておりそこは素晴らしかった。だからこそそのコメントに基づいてもっと点数を上下すべきだったなと思いました。上位4組は基本的にしゃべくりタイプで、好みがしっかりと出ているというのもありましたね。最後にさや香に投票したり、男性ブランコを見て「果たして漫才なのか?」という疑問を投げかけた点においてもオール巨人師匠の思考を引き継いだ審査員と言えるでしょう。

【塙宣之】
最高:ヨネダ2000 96点 最低:キュウ、ダイヤモンド 88点
平均:92.0点 得点差8点
こちらも得点差8点とかなり少なめ。3組に92点、2組に88点をつけるなど、もう少し優劣をつけるべきではないかと感じました。審査コメントに関しては常に説得力があり素晴らしいと思います。傾向としては「とにかく面白いか、ウケていたか」が主軸で、今年もヨネダを最高点にしている点はブレないですね。まあヨネダを除けば2~4位がそのまま全体の上位3組になっている辺り全体のバランサーとしては優れているんだろうというのはありますね。

【サンドウィッチマン・富澤】
最高:さや香 97点 最低:ダイヤモンド 88点
平均:92.6点 得点差9点
毎年無難に点数をつけているイメージで、今年もオズワルドとキュウが90点で同点以外は優劣をしっかり付けて審査していました。コメントに関しても芸人として笑いを取りに行きつつ、短く的確にまとめていて、正直THE・無難だなと。まあ別にそれが悪いというわけではないですが、あまり特筆すべき点が無いのでこの辺で。

【立川志らく】
最高:ウエストランド 98点 最低:ダイヤモンド 88点
平均:93.5点 得点差10点
初年度は頓珍漢なコメントでかなり叩かれましたが、それもある程度は落ち着いてきた印象ですね。毎年全体的に点数が高く、今年は上位と下位で大きく差がつく形となりました(7位真空ジェシカ94、8位カベポスター89点)もう少し微調整があっても良いのかなとは思いますが、審査員としてはしっかり機能しています。何より好みがはっきり出ていますね。去年のランジャタイに続き今年はヨネダに97点。漫才師ではない立場からの評価としては存在感が際立っており、これはこれで良いんだと思います。ただ、やはり審査コメントに関しては一考の余地ありでしたかね。

【中川家・礼二】
最高:さや香 97点 最低:ダイヤモンド 89点
平均:93.1点 得点差8点
礼二さんも毎年平均点が高い印象で、92~95点あたりを多くつけて優劣をはっきりつけないタイプだと思います。今年も傾向としては同じでした。基本的な審査方針としては「個人の好み+会場のウケ量」なので、見ている側としてはあまり違和感を感じない審査とも言えると思います。富澤さんと同じく無難な審査。ただやはり得点差が小さいので審査として機能しているかどうかと言われると、難しいと思います。

【松本人志】
最高:男性ブランコ 96点 最低:キュウ 86点
平均:91.2点 得点差10点
ここ数年ほぼ同じ点数を使わずに優劣をはっきりつけている審査員の鑑だと思います。全体の1~10位がそのまま松本人志のつけた点数になった年もあり、まさに漫才師の頂点とも言って差し支えない存在なのですが、今年に関しては4位の男性ブランコに最高点、真空ジェシカに唯一の80点代をつける等、好みがいつもより反映される結果となりました。これはこれで素晴らしいことだと思います。むしろもっと個人の好みを反映させるべきだと。みんなが足並み揃えて同じ価値観で審査をするのであれば誰でも良いわけですからね。

さて、ここからは出場者視点での総括を
【まさかのトップバッターと最初の爆発】
絵御籤でトップを引いたのは個人的に応援していたカベポスター。これはまさに痛恨でした。しかしいつも通りの安定した力でしっかりやりきりました。どうしても手数だったりボケの強さが弱点になってしまいますが、大きなボケに到達するまでに小さいボケを入れて弱点を補う構成は素晴らしかった。続く真空ジェシカも出番順に泣かされた。場慣れしている感じもありましたし、六法全書の同人誌やかいみょん等、少し前の時代では一部にしかウケないであろうボケをしっかり見極めて笑いに繋げる地力は凄いなと。しかし終盤の間延びはやはり川北がネタを飛ばしていたんだなと。あそこが悔やまれますね。3組目は敗者復活組のオズワルド。準決勝も敗者復活でも数年前からやっているネタのブラッシュアップというのが本当に苦しい一年を象徴していました。毎年出場する毎に失われていく新鮮さは彼らにとっては十字架でしょう。来年からはどうするのか見ているのも辛いですね。続くロングコートダディが最初の爆発を生み出しました。奥行を使ったコント漫才で、次に何が来るのかワクワクさせるボケで序盤から拍手笑いをもぎ取りました。この次に出てくる組がこの流れをどう活かすかでしたが、さや香が圧巻のパフォーマンス。観客の熱量を代弁する新山の鋭いツッコミが映えに映えた印象で、この時点で後半に「当たりクジが残っているのか」とすら思わせる出来でした。

【出番順に泣いた組と復讐に燃える組】
2組続いた爆発に怖気づいたのか、6組目の男性ブランコ平井がド頭から噛んでしまう失態。しかしそこからは立て直し、やや展開が読めるという欠点はあるものの、強い独自性とコミカルな動きは分かりやすい点となり評価に繋がったと思わせる形になりました。続くダイヤモンドは個人的には準決勝でもそこまで大きくウケていたとは感じなかったので、この出番順も相まってかわいそうだったなと思いました。常に新しいスタイルに挑戦する姿勢は素晴らしいので来年以降に期待ですね。残りは3組というところで漫才新時代を作るならこのコンビ、と期待していたヨネダ2000の出番が回ってきた。このネタは劇場で何度も見ているが、その度爆笑を巻き起こしてきたネタだった。人を選ぶネタではあるが、それでも中盤からの盛り上がりは十分すぎるウケ量であった。しかし審査員の評価は二分。だがそれで良い。その世界観を磨いてまた戻ってきてほしい。この後はやりにくいだろうなという9番目に真逆のスタイルで挑むキュウはやはり順番に恵まれなかったのだろう。彼らにしか出来ない独特の間と感性は発揮したがこの日は運にも恵まれなかった。最後に残ったウエストランドは2年前も同じく大トリだった。下馬評としては低かったが、彼らはずっと自分たちを貫き通してきた。行列の先頭でやっていたこのネタで会場は揺れていた。M-1ではそこまでには至らなかったが、それでもこのネタで観客が笑うんだな、とある意味では時代が変わったんだとも感じた。3位通過ではあるが堂々の最終決戦進出だった。

【三者三様、今年のテーマは復讐(リベンジ)だった】
3位となったウエストランドは最終決戦でも同じくあるなしクイズで勝負。前述したように1つのネタを分割したもう1つの方だったが、際どいネタでありながらも勢いそのままにしっかりとウケた。2番手のロングコートダディはコント師らしく毛色が大きく変わるネタ。1本目が強かっただけにやや手数の少なさが目立ってしまったか。それでも一発の強さは特筆すべきものがあった。最後のさや香は間隔が空いたものの同じく熱量を高めつつ、中盤で見てるこちら側をあざ笑うかのような大きな裏切りからの展開が圧巻。王道のしゃべくり漫才でM-1を締めくくった。
正直この時点でこの3組であれば誰が優勝しても納得出来る素晴らしい大会だったと思う。個人的にはさや香に一票。審査員の予想としてはさや香とウエストランドがそれぞれ3~4票をでロングコートダディは1票入るぐらいと考えていたが、結果は予想を上回りウエストランドが6票を獲得。見事18代目チャンピオンに輝いた。

【漫才を塗り替えろ、その答えは】
今年のキャッチフレーズは「漫才を塗り替えろ」であった。個人的にはヨネダ2000のような若手が漫才の常識を覆して新時代に突入するのではないかと思っていた。しかし結果はベテランのウエストランドが見事復讐を果たして戴冠。しかしこれもまた「塗り替えた」と言えるのかもしれない。2019年のぺこぱの大躍進をもってして「人を傷つけない笑い」というのがフィーチャーされだした。ぺこぱ本人は試行錯誤した末にたどり着いたネタであり、そこを狙っていたわけではないと思う。しかしこの息苦しく、細かいことにすらつっかかるうるさい時代に真っ向から立ち向かい、自分たちを貫き通したウエストランド、そしてボケとツッコミを入れ替えたものの、熱量という自分たちの武器を見失わずに返り咲いたさや香、今年はこのリベンジ組が輝いた年でもあった。

【総括】
良い大会であった、と一言で言うのは簡単だが、やはり霜降り明星の優勝から「若手にもチャンスがあるんだ」となったように、去年の錦鯉によって「まだ俺たちもやれるんだ」というベテランにも火が着いて、エントリー数だけではなく、全ての漫才師の熱量が増してきたように思う。それに呼応してファンも熱くなっているのだろうと。しかしファンはあくまでファンである。独自に点数を付けようが、ネタを分析しようが好きにするべきだと思う。だがそれを武器として相手にぶつけ、他者を攻撃することは違う。個人的にもそこは気を付けながら、これからもM-1グランプリを楽しみ、そしてかつて参加したこともある人間としても、全てのM-1戦士にリスペクトと労いの言葉をかけたいと思う。
敗者なんていない。戦いに挑んだ者は全て勝者である。

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